こんな選出方法はNG

 こうした行為のどこが問題となるのでしょうか?

 過半数代表者、つまり従業員代表となることができる要件と選出の方法は、実は下記のように決まっています(労働基準法施行規則第6条の2)。

(1)労働基準法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと
(2)法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること

 ここでいう投票、挙手等とは、行政通達では「労働者の話し合い、持ち回り決議等労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的手続が該当する」とされています(基発第169号 平11.3.31)。そのため、次のような方法で選出している場合は、適切な方法とは言えず、労使協定自体が無効となってしまうのです。

NG! ⇒労働者を代表する者を使用者が一方的に指名する方法
NG! ⇒親睦会の代表者を自動的に労働者代表とする方法
NG! ⇒一定の役職者が自動的に労働者代表となることとする方法
NG! ⇒一定の範囲の役職者が互選により労働者代表を選出する方法

 美香さんのように、社長からお願いをされてサインをしてしまうようなケースは、まさに使用者が一方的に指名しているものとなり、こうしたやり方で届け出た36協定は無効となります。

 たとえそれほど残業をしていなかったり、きちんと残業代が支払われていたりしても、それとは別の問題なのです。実際に、過半数代表者が会社指名の者であったために、36協定が無効とされるばかりでなく、再三の指導にも改善が見られなかったために、労働基準法違反で使用者が書類送検された事案もあります。

あなたの働き方にも関係がある

 「法定労働時間を超えて残業は一切させない」、という会社はむしろ珍しく、ほとんどの会社において、36協定は締結されていると考えられます。つまり、あなたの会社にも36協定があれば従業員代表がいる、ということです。

 そこで質問ですが、あなたは自分の会社の従業員代表が誰だか知っていますか? 意外と代表が誰であるか、また36協定の内容自体も全く知らない……というケースが多いかもしれません。しかし、こうした労使協定は、あなた自身の働き方にも関わってくることです。

 労使協定は36協定に限らず、さまざまな種類があります。また、過半数代表者は、就業規則の作成や変更に際して、意見を聴取される立場にあります。

 上司からの「ちょっとサインして」には、気軽に応じず、内容をよく確認することが大切です。もしそれが労使協定であれば、サインをしてはいけません。もちろん、社員が一人しかいなければ、民主的な方法による選出の余地はありませんが、その場合でも内容に不明点があれば、しっかりと確認したいものです。

まずは書類の内容をよく確認することが大切です (C)PIXTA
まずは書類の内容をよく確認することが大切です (C)PIXTA

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA