法案に盛り込まれた「スーパー裁量労働制」

 今回の働き方改革法案では最終的に削除されたものの、企画業務型裁量労働制の対象業務に、(1)裁量的にPDCAを回す業務、(2)課題解決型の開発提案業務――の二つを追加して、さらに拡大を図ることを狙いとしていました。こうした対象範囲の拡大は、日本における人手不足の現状の中で多様な働き方を用意し、日本全体で生産性を高めることが目的とされています。

 そもそも裁量労働制は、私たちの働き方に浸透しているとは言い難い状況といえます。企画業務型裁量労働制が適用されている労働者割合は、平成29年度調査計でわずか0.4%、専門業務型裁量労働制の1.4%と合わせてもわずか1.8%にすぎません(平成29年就労条件総合調査概況)。こうした状況の中で、政府としては拡大を狙いましたが早くも立ち消えとなり、経済界からは失望の声も聞かれています。

 働き方改革法案において裁量労働制は切り離されたものの、一部で「スーパー裁量労働制」で皮肉られている「高度プロフェッショナル制度」は、そのまま法案に盛り込まれています。これは、金融商品のディーリング業務やアナリスト、コンサルタントの業務など、高度の専門的知識等を必要とする一定の対象業務に就く年収1075万円以上の労働者について、労使委員会で決議し行政官庁へ届出等を行うことにより、労働時間、休憩、休日・深夜の割増賃金に関わる労働基準法の適用から除外される制度をいいます。対象者は相当限られるとはいえ、裁量労働制と比べても規制が緩く、かえって長時間労働を招くことになることが懸念されています。

適切に運用されない企業も…

 裁量労働制は、うまく活用できれば、生産性を高めワークライフバランスの実現にも役立つ働き方であるといえます。実際に、時短勤務の適用を受けずに、裁量労働制でメリハリをもって働くことによって給与を維持しながら育児と仕事の両立を図っている方もいます。そうした方たちにインタビューしてみると、「裁量労働制だからこそ、仕事を続けることができた」「これ以外の働き方はもうできない」など、好意的に評価している様子がうかがえます。

 一方、適切に運用されず、問題となっているケースも後を絶ちません。つい先頃も、裁量労働制を違法に適用したとして厚生労働省東京労働局から特別指導を受けた大手不動産会社がありますが、裁量労働制で働いていた男性社員が過労自殺で労災認定を受けていたことが明らかになりました。勤務記録によると、亡くなる1カ月前の残業時間は約180時間に達していたといいます。

どのような働き方でも普段から生産性を意識して働くことが大切です (C)PIXTA
どのような働き方でも普段から生産性を意識して働くことが大切です (C)PIXTA

 働き方の自由度を高めていくことは、労働生産性を向上させる上でも、個人の生活を充実させるためにも重要です。問題はその使い方で、大切なのは労使双方が正しい認識をもってベクトルをうまく合わせていくことではないでしょうか。

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA