超音波検診への期待と課題

 デンスブレストの人がマンモグラフィ検査でがんを検出しにくいことは分かった。では、超音波による検診は有効なのだろうか?

 現在、日本では「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験」(J-START)という、世界に誇る大規模なスタディを進行中だ。約7万人を対象として、マンモグラフィ単独に超音波検査を加えるとどのくらい効果があるのかを検証している。

 「結論は出ていませんが、今のところ、超音波を追加した人の中で、視触診によってがんが見つかった人は1人もいません。もし将来、マンモグラフィと超音波で検診が行われるようになれば、今、行われている視触診は必要がなくなるでしょう」(戸崎さん)

 すでに超音波を検診に取り入れている自治体も3割ほどあるが、地域によって差がある。マンモグラフィに超音波を追加すれば、当然、情報が増えるのでがんの検出率は上がるが、過剰診断の可能性もあること、超音波検査は検査を行う人の判断に依存する面が大きいことなどから、精度管理が重要だ。制度として全ての自治体が乳がん検診に超音波を用いるには、本当に有効かどうか、検証を待たなければならない。

マンモグラフィの新技術(トモシンセシス)

 マンモグラフィの技術も進歩している。「乳房トモシンセシス検査」といって、連続的に撮影することによって情報量を増やして立体的に見ることができるマンモグラフィが登場。従来より、病変と乳腺の重なりが少ない明瞭な画像が得られるのが利点だ。これによりがん検出率が上がるという海外のデータはあるが、日本人でのデータはまだ十分に蓄積されていない。

一人ひとりのリスクに応じた“個別化検診”の時代へ

 「BRCA1/2」という乳がん・卵巣がんに関連する遺伝子変異があり、高い確率で発症しやすいハイリスクの人に対してはMRI検査が有効という報告も複数ある。米国対がん協会は、ハイリスクの人に対してマンモグラフィとMRIによる年1回の検診を推奨。しかし日本では、ハイリスクの人の定期的な経過観察に必要なMRガイド下生検を行える施設は数が少なく、十分な体制が整っていないのが現状だ。

 乳がんの検診にはいくつかの方法があるが、それぞれに長所・短所があり、一律に決められた検診を受けていれば100%がんを早期発見できるというものではない。ベストのがん治療が個人によって異なるように、本来、自分に合うベストな検診方法も違うのだ。

 「ハイリスクの人はマンモグラフィ+MRI、デンスブレストの人はマンモグラフィ+超音波、それ以外の人はマンモグラフィのみというように、将来は検診もそれぞれのリスクに応じて個別化していくのが望ましいと思います」(戸崎さん)

 マンモグラフィの推奨グレードが変わっても、個人レベルでは、決して検診を受けなくてよいということではない。日本の検診受診率は多く見積もっても3~4割と、7~8割が検診を受けている欧米に比べてはるかに低い。現行の制度の中でも、たとえばマンモグラフィ検診は受け続けながら、乳腺が多いデンスブレストのようなら超音波検査をオプションで追加するといった、一歩進んだ対策はできそうだ。

 がんを早期に見つけるためにはどうすればいいのか。今、自分にできる最良の行動を冷静に見極めたい。

この人に聞きました
戸崎 光宏さん
戸崎 光宏さん
NPO法人 乳がん画像診断ネットワーク 理事長
さがらブレストピアヘルスケアグループ乳腺科

平成5年東京慈恵会医科大学卒業。同大学放射線科、東京都立駒込病院病理科、独イエナ大学放射線科、亀田総合病院乳腺科部長等を経て現職。専門は乳腺画像診断(特に画像と病理との対比)およびMRIガイド下生検。日本乳癌学会「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン」検診・診断小委員会委員長。

取材・文/塚越小枝子