不妊原因は男女とも多岐にわたり、その組み合わせは夫婦ごとに大きく異なります。そのため、画一的な治療方法のローテーションに陥るのでなく、それぞれの夫婦の不妊原因を解析したうえで、最適な治療を行うことが必須です。不妊治療専門施設の黒田インターナショナル メディカル リプロダクション(東京都中央区)院長の黒田優佳子先生が行った講演の内容をまとめました。

不妊原因は男女とも多岐にわたり、その組み合わせは夫婦ごとに大きく異なります。 (C)PIXTA
不妊原因は男女とも多岐にわたり、その組み合わせは夫婦ごとに大きく異なります。 (C)PIXTA

不妊の原因は男女半々。女性側と比べて男性側の治療成績は低迷している

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長の黒田優佳子先生
黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長の黒田優佳子先生

 不妊とは、妊娠を希望しているご夫婦が1年間、避妊することなく性交を続けていても妊娠しない状態をいいます。年々増加し、現在、5組に1組の夫婦が不妊に悩んでいる状況です。

 近年、女性の晩婚化が進むにつれ「卵子の老化」という言葉も聞かれるようになり、不妊の原因は女性側にあると思われがちです。しかし実は、約半数は男性側の精子に原因があります。

 日本では、子どもを産めない女性は「石女(うまずめ)」といわれて離婚の原因とされ、実家に帰されていた時代が長く続きました。不妊原因は女性側にあると思われてきた歴史的背景もあり、婦人科領域では精力的に「卵子に関する研究」が行われてきました。その結果、有効性の高いホルモン療法(排卵誘発剤)が確立し、女性側の不妊治療の成績は飛躍的に向上したのです。

 一方、泌尿器科領域では男性側の不妊原因、特に「精子に関する研究」を行う先生はごく少数でした。当然、婦人科領域では、最近まで男性側の精子についてほぼノータッチでした。その結果、ヒトの精子に関する研究は出遅れてしまい、男性側の不妊治療の成績は低迷しているのです。男性不妊の90%は精子が上手に造れない精子形成障害なのですが、その原因が明らかとなる場合はむしろ少なく、今日でも精子形成障害を治す根本的な治療法は確立していません。

 そこで男性不妊治療の対症療法として生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology、ARTと略す)が用いられています。ARTとは、体の外で受精(授精)を促す技術で、具体的には体外受精や顕微授精に代表されます。