更年期は「ホルモン補充療法」で対策

 更年期の女性ホルモンのゆらぎに伴う諸症状は、治療で緩和できる。有効性が確立されているものとして、少量の女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法(HRT=Hormone Replacement Therapy)」という治療法があることを知っておきたい。

 ただし、ほてり、発汗、冷え、動悸、不眠、肩こり、疲れなどの更年期症状の現れ方は個人差が大きく、年齢を重ねることそのものが原因となることもあれば、性格的な素因も絡んでおり、几帳面で完璧主義な人ほど症状が現れやすい。また、職場・家庭の問題や、ちょうど50歳頃に親の介護がのしかかるといった社会構造も複雑に相まって、症状として現れるため、HRTだけで全ての問題が解決するとは限らない。

 「心理・社会的側面を踏まえて、私たちの大学病院では、管理栄養士による食事・運動など生活習慣のケアと、医師による薬物療法を両輪として行う“系統的健康・栄養教育プログラム”を行っています」と寺内さんは説明する。全ての医療機関でこうしたプログラムが整っているわけではないが、更年期の問題は、心理面・社会面など生活全体をケアしていくことが重要だということは覚えておきたい。

 さて、話を女性ホルモンの治療・HRTに戻そう。HRTは、女性ホルモンのゆらぎに伴う諸症状の緩和だけではなく、閉経後に起こる骨粗しょう症や心臓・血管の病気の予防にも役立つことも分かっている。

 閉経後の女性ホルモン量は、通常、男性が分泌している女性ホルモン量よりも少なくなるという。ここまで女性ホルモンが低下すると、骨を壊す細胞(破骨細胞)のはたらきが活発になり、骨をつくる細胞(骨芽細胞)のペースが追いつかず、骨が減ってしまう。そこで、HRTが有効になってくる。実際、骨粗しょう症の人にHRTで女性ホルモンを補えば骨量が増えることや、骨粗しょう症ではない人にHRTを行うと骨折が2~3割減らせることが分かっている。

 現在、女性では65歳で3人に1人、75歳で2人に1人が骨粗しょう症だといわれている。骨粗しょう症から骨折への悪循環は寝たきりの要因でもある。超高齢社会で寿命が延びるなか、寝たきりにならないためにも、閉経前後の時期からHRTを活用して、将来の骨粗しょう症を予防していくことには大きな意味があるといえる。

 また、閉経後はLDL(悪玉)コレステロールが上がってくることが多く、心臓病や脳梗塞などのリスクも高くなる。HRTは、LDLコレステロールを下げることも研究で確かめられており、将来の心臓・血管の病気の予防にも役立つ。

若い世代で女性ホルモンのバランスを整える手段は「ピル」

 40代より前の若い年代で女性ホルモンのバランスを整える主な手段としては、「OC」「LEP」という薬の服用がある。高い確率での避妊効果や月経痛などの症状を改善するという大きなベネフィットが得られる。

 「OC(Oral Contraceptives)」とは経口避妊薬、いわゆる「ピル」。ホルモンの力で排卵や着床を抑制し、妊娠しないようにする薬だ。「LEP(Low dose Estrogen-Progestin)」は、ホルモンの作用で月経痛などを改善する月経困難症の治療薬として認可された。実はこの2つの薬の作用は同じで、海外では区別されていないが、日本ではOCは自費で使用する避妊薬、LEPは保険適用の月経困難症治療薬として区別されている。

 ただし、日本産科婦人科学会のガイドライン(2015年)によると、タバコを吸っている人は「慎重投与」となる。35歳以上の喫煙者には、基本的に投与しない。喫煙とOC・LEP服用の両方が重なると、血管の中に血の塊ができて血液が流れなくなる血栓症のリスクが跳ね上がることが分かっているためだ。

 また、40歳以上で閉経していない人に対しては慎重投与とされている。理由は喫煙者の場合と同じで、血栓症のリスクが高くなるためだ。閉経以降や50歳以降の人はさらにリスクが高まるため、「投与しない」ことがすすめられている。

 「50歳を過ぎても必要があってOC・LEPを服用する場合ももちろんあります。一概に否定するわけではありませんが、血栓症のリスクについてよく話し合ったうえで、患者さんの同意のもとに投与するのが理想的です」(寺内さん)

40代以降に有効な避妊法は「プロゲスチン付加型IUS」

 避妊については、年齢が高くなれば妊娠率は下がるので、それほど神経質に考えなくてもよいのではないかと思われるかもしれない。しかし、統計によると、妊娠総数に占める人工妊娠中絶の割合は10代と並んで実は40代にも多い(図2)。

図2 平成25年人口動態統計、平成25年度衛生行政報告例より
図2 平成25年人口動態統計、平成25年度衛生行政報告例より

 40代以降は妊娠率は低いけれども、たまたま妊娠した場合の中絶リスクが大きいのだ。合併症などのリスクを考えても、やはり望まない妊娠を防ぐ確実な避妊が大切といえる。

 では、OC・LEPのリスクが高くなる年代での避妊はどうすればいいのか。コンドームは簡便ではあるが避妊効果は劣る。それ以外の選択肢の一つが、子宮内に避妊器具を入れるという方法だ。

 従来、使われてきた「銅付加IUD(Intrauterine Device)」などの器具は、異物反応によって妊娠にかかわるメカニズムを阻害し、1回入れると2~3年間避妊ができるというメリットがあるものの、月経量が一時的に増えたり、不正出血が続いたりすることがあった。

 一方、2007年に発売された「プロゲスチン付加型IUS(Intrauterine Contraceptive System)」は、器具に付着した合成黄体ホルモン(プロゲスチン)が子宮内に持続的に放出され、子宮内膜に作用することによって妊娠を阻害するものだ。一度入れれば最長5年間避妊することが可能なうえ、黄体ホルモンの作用で子宮内膜が薄くなるため、月経量は減少する。OC・LEPは飲み忘れなどによって妊娠率が少し上がることがあるが、IUSの場合はきちんと挿入されれば、毎日避妊のことを考えることなく高い避妊効果を保つことができる。

 「高い避妊効果が得られ、かつ月経困難症も軽減できるプロゲスチン付加型IUSは、OC・LEPのリスクが高くなる40代以降の女性にとって有効な手段ではないかと期待しています」(寺内さん)