仕事でもプライベートでも、発信力を高めることができれば、やりたいことができる環境が整う時代。せっかくの実力が発信力の弱さで埋もれぬよう、プレゼンノウハウに詳しい池田千恵さんが指南していく本連載は、今回が最終回です。最後に池田さんが伝えたいメッセージとは?

思った以上に世間は優しいと感じた出来事

 先日、1歳8カ月になる息子を連れて、電車で片道1時間半ほどかかる友人の家に遊びに行きました。普段は息子を連れての電車移動は夫と3人のことが多く、何かあっても交代であやしたり、荷物を持ち合ったりと協力し合えて安心なのですが、今回は夫の同行はなし。イヤイヤ期に入り始めている息子と二人きりで1時間以上の移動はドキドキ。電車で泣きやまなかったらどうしよう……。ベビーカーをうまく動かせなかったらどうしようなど、不安は尽きませんでした。

 案の定、最初はご機嫌だった息子は40分ほどしたところで飽き始め、混み合っている電車内でベビーカーから降りたがったり、抱っこひもで抱っこしても泣き出したり、おもちゃを渡しても全部「違う!」とばかりに暴れるなど、想像していたよりももっと悪い状況に。

 こういうときは、ネガティブな反応ばかりが目に入ります。近くに座っていた若い男性が「うるさいんだよ」とばかりにため息をついて席を移動していき、私の心臓はきゅーっと締め付けられました。しかし、ネガティブな反応は、振り返るとたった一人で、後はとても優しい人たちに助けてもらいながらの小旅行でした。

 一見コワモテのお兄さんが、「こちらにどうぞ」とドア横の立ちやすい場所まで案内してくれたり、前に座っていた若い男性が席を譲ってくれたり、隣に座っていたマダム風の女性は、自分の家の鍵とキーホルダーをじゃらじゃらさせてあやしてくれたりと、総動員で息子に目をかけてくれ、お陰で機嫌も直りニコニコさんで目的地まで到着することができました。

 帰りもまた飽きて泣き始めたのですが、今度は女子高生4人組が「かわいいー!! 癒やし系?」と息子に近寄ってきてくれて、腕や足、ほっぺをぷにぷに。女子にちやほやされてうれしかったのか、息子は愛想を振りまいていました。その後は親子3代で電車に乗っていた家族のおじいさんから声をかけられ「かわいいですね~。向かいに座っているうちの孫の小さかった頃の写真ですよ」と携帯写真を息子に見せて遊んでくれました。その家族が電車から降りると、今度は「うちのひ孫も同じくらいでね」と、おじいさんが話しかけてくれて相手をしてくれたり、向かいの女性はポケモンGOのキャラクターを見せてくれたりと、見知らぬ方たちにたくさん遊んでもらい、無事に帰途に就くことができました。

「○○したらどうしよう」はほとんどが幻想

 この出来事で感じたのは「世間は自分が思っている以上に優しい」ということでした。私たちはよく、ネガティブな事実に目を向けがちですが、今回の移動でのネガティブ対応はたったの一人。ポジティブな対応をしてくれた人は、ニコニコ笑顔を見せてくれたりした人を合わせると、20人以上です。

 困ったときはいろいろな形で周囲は助けてくれるし、自分で何でも背負って頑張ろうと気負わなくても大丈夫なんだな、と、肩の力が抜けた気がしました。もっとフットワーク軽く、息子と遠出してもいいんだ、本当に困ったときはきっと周囲が助けてくれると思うと、自分の世界がぐんと広がった気がしました。

 この話は一見「しなやか発信力」と関係ないように見える出来事かもしれませんが、大いに関係があります。なぜなら、発信に苦手意識を持っている人は、思い切って発信してみると周囲は意外に優しいということを知らないまま、発信することによって起きるネガティブな状況をあれこれ想像し、先回りして怖がって結局動けないという状況に陥っているのです。そう、怖いからと、息子と二人で遠出をすることに躊躇(ちゅうちょ)していた私のように。