自分や相手が何に「ごめんね」と言っているかを探ってみよう

 今回の出来事をきっかけに、数日間「ごめんね」について考えていたのですが、「ごめんね」は考えれば考えるほど奥が深く、安易に使うものではないな、と感じました。なぜなら、「ごめんね」にはさまざまな意味が曖昧に内包されるが故に、自分の気持ちや相手の意図も曖昧でうやむやなものになってきてしまうからです。

 コミュニケーションはキャッチボールです。相手の意図も、自分の意図もうやむやなままやり取りを続けると、いつのまにかボタンの掛け違いが起きる可能性があります。

 例えば、何に申し訳なく思うかは人それぞれです。仕事の進捗の遅れが悪だと思っている人は期日通りに仕事を終わらせられなかったときに「ごめんなさい」と思いますが、進捗の遅れよりも完成度を優先させたいと思っている人は、期日通りに終わらせなくても「ごめんなさい」とは思わないことでしょう。違う価値観の人には、違う謝り方をしないと、お互い「相手は失礼なヤツだ」という誤解のヒビが大きくなってしまいますよね。

 だから自分が何に「ごめんなさい」と思うかを探ることは、そのままあなた自身の価値観や思い込みの明確化につながり、コミュニケーションミスの改善にもつながるのです。

 自分のことは、なかなか自分では分からないものですが、自分の「ごめんね」チェックでより深く知ることができます。同時に、相手が何に「ごめんね」と言っているかを注意深く探ることにより、相手の価値観も分かるようになります。

安易な「ごめんね」は相手を傷つける

 また、安易な「ごめんね」は、自分や相手の価値も知らず知らずのうちに下げてしまうこともあり得るので気を付けましょう。

 私塾である「私であるための企画力講座」の受講生で小さいお子さんを育てている方から聞いた言葉で、思い込みのかすみが晴れるような気持ちになりました。

「子どもを保育園に預けるとき、寂しい思いをさせてごめんね、とは言わないようにしています。いろんな人に遊んでもらって、楽しいね、といって送り出すんです。ごめんね、といって預けると、自分はかわいそうな子だと思ってしまうので」

 何気なく子どもに「ごめんね」と言ってしまうことで、「子どもを置いて仕事に行き、寂しい思いをさせてしまう私はダメな親だ」「仕事を続ける母親は愛情が足りない」という価値観を知らず知らずのうちに子どもに押しつけてしまうこともあるのだと、このエピソードから気付きました。

 それからというもの、子どもにポジティブな声掛けを心掛けるようになりました。これは何も子どもに限らず、同僚や友人、部下などにも使える、自分の意識も相手の意識も切り替えることができる手法です。