結婚で延びる寿命 男女で異なる悲しい理由

 「泊まり勤務の後、眠くても夕飯はつくり、休みの日は大学院受験の勉強をしながらも家事を怠らないように、と心がけていた。夫は、私が働くことを応援していて、家事も女性がすべきものとは考えていなかった。それでも、私は女医であることがマイナスになるまい、ほかの女性に劣るまいと、気付けば競争心を燃やしていた。社会が求める女性像に応えようとした結果、心が折れそうになった。

 でも、そういう状況でも一番の支えとなったのは、女性だった。大変な環境でも、子どもを3人育てながら臨床現場の第一線で活躍している産婦人科の女医さんから『仕事も家庭も充実させなさい、旦那との協力が大事よ』と親身なアドバイスを受けたことが一番の励みになった。私には彼女達がスーパーウーマンのように見えた」

 また、林観さんはハーバードで1年半を過ごし、多様な女性の生き方や社会観に触れることで、キャリアのあり方に対する意識が変わったという。

研修医として消化器に没頭した
研修医として消化器に没頭した

 「大学院の同級生や今の職場には自分と同じ女性であるにも関わらず、日本よりも遥かにのびのびとキャリアを形成し、成功している人たちがたくさんいる。 彼女たちと当たり前のように自分の将来の夢を語り、日々仕事に取り組んでいると、やる気も出るうえ、ポジティブな気持ちで仕事に向かえるのだ。女性自身が活き活きと仕事に取り組みながら、お互いを支えあっている環境が何よりも今の自分にプラスに働いていると、感じている。日本に戻ったときにも、同じように女性が活躍できる社会になっていて欲しいと心から願っている」

 さらに、林観さんは大学院で学んだ、結婚についての面白い研究を紹介してくれた。

 結婚と健康の関連性を検証した研究では、結婚することによって男性は7年、女性は2年寿命が延びるという結果が出たそうだ。男女の寿命の差が5年もあることも驚きだが、この差が出る背景を聞くと、さらにショックだった。

 寿命が延びる理由は男女で違う。男性の寿命が延びる理由は、生活のサポートが増え、不健康な生活習慣が是正され、社会との繋がりが増えるなど、健康を促す変化があるからだ。一方、女性の寿命が延びる理由はただ1つ。経済的に安定するからだ。男性にとって結婚はメリットだらけなのに対して、女性にとってはお金以外にメリットがないと、この研究は示している。

 さらに、働く夫婦にとって、メンタルヘルスに最適な家事の負担の割合は、男女ともに45.8%だというデータがあり、互いにそれ以上の負担が増えるほど、うつ症状が増加するという。だが、共働きでも、仕事をして家に帰った後も家事という名の仕事の大半を女性が担っていることが、女性のうつ病が多い要因の一つであると考えられており、夫婦間の家事負担の割合が健康にも影響を及ぼすとは驚きだ。