アメリカの女性にとっても“シェリル”は遠い存在
ケネディ・スクールの強みの一つは、毎学期「フェロー」として在籍する政界や財界の著名人だ。彼らの授業や勉強会を通して、学生は最前線で活躍する実務家から学ぶ機会がある。先学期のフェローの中には、CNN看板政治記者・キャスターのキャンディ・クローリー氏やアメリカのウェンディ・シャーマン前国務次官等、子育てをしながらキャリアを築いた女性もいた。私自身、シャーマン氏のリサーチ・アシスタントを務めたが、仕事の合間に、家族と電話で話す姿が印象に残っている。
2人の子供を持つ、フェイスブック最高執行責任者のシェリル・サンドバーグ氏が数年前、ワーク・ライフ・バランスに関する書籍『リーン・イン』を出版した。同級生とワーク・ライフ・バランスの話をすると、今でも彼女のストーリーは話題になる。アメリカでも、女性の社会進出はホット・トピックなのだ。
私は、アメリカ人の同級生にとって、シェリル・サンドバーグ氏などのいわゆる「パワー・ウーマン」がロール・モデルなのかと思っていた。しかし、その想像とは裏腹に、実はそうでもないという声をよく聞く。
「(シェリルは)ロール・モデルとしてはあまりにも、遠い存在。特別。すごすぎる」
三者三様のワーク・ライフ・バランス
ワシントンDC生まれのエミリー(27歳)も、そう言う一人だ。
「確かに、“すごい人”達の話は話題になる。でも大切なのは、自分のお母さんが両立していたか、職場の上司が両立していたか。これらの質問にイエスと答えられると、急に仕事と家庭の両立が実現可能なものに思えてくる」
エミリーは、4年間の大手コンサルティング会社勤務を経て、都市政策に携わりたいという目標を持ち、ケネディ・スクールに通っている。コンサルタントの勤務時間は長く、毎週のように出張があったという。
「前職には、ワーク・ライフ・バランスに様々な形で取り組むお母さんがいた。高額なチャイルドケアにお金を使い、これまで通りの働き方を貫いた人。スケジュール管理がしやすいプロジェクトを探し、働き続けた人。ポジションを落として、仕事量を調整した人。彼女たちを見ていて、ワーク・ライフ・バランスは、その人の運や周りのサポート・理解、本人の意思の組み合わせで成り立つものだと感じた」
前職の先輩たちの「バランスの形」を見ることで希望を持ちつつも、「両立はとてつもなく大変」に見えたという。
エミリーのお母さんは、3人姉妹を育てながら仕事をずっと続けてきた。