秘書の皆さんが続けているお稽古事は?

――秘書に必要な素養や、仕事に必須の資格はありますか?

島倉 私は、子どもの頃に書道を習っていたのですが、以前、私が書いた香典袋を見た上司に「字がかわい過ぎるから、自分で書くよ」と言われてしまいました。ご祝儀・お香典の表書きなどでの筆ペンでの宛名書きが課題で、現在、書道を習っています。字は自分の上司や、会社の評価につながると思うので、秘書にとって、美しい字は必須だと思います。

竹内 厳しいことを言ってしまえば、字の汚い秘書は失格だと私は思っています。デジタル化が進んでいる今の時代において、メッセージを一言直筆でしたためるだけで相手にホスピタリティが伝わります。私も小学校低学年から書道教室に通い、中高時代には書道部に属し、学生時代に硬筆書写技能検定準一級を取得しました。大事なお取引先様の会食のお礼状は上司を装って筆ペンで書いていました。

 秘書にとって周囲とのコミュニケーションは非常に大事な仕事ですが、美しい直筆のメモを添えることで、いろいろな方とさらなるコミュニケーションが生まれることもよくあります。

伊田 悪筆は、読み間違いのもとになりますし、読みにくさを理由に最後まで読んでもらえない可能性もあります。「書」は日本古来の伝統文化であり、美しい字は「相手への思いやり」です。秘書にとって身に付けて損はないものだと思います。

 私も小学校低学年から中学まで書道を習っていて、その後、社会人になってからまた筆を持ちたくなり習い始めました。きっかけは、私の母が亡くなった時、その頃お稽古に通っていた茶道の先生から頂いたお手紙でした。文章には温かい言葉と美しい言葉がたくさんちりばめられ、流れるような美しい文字から先生の優しさを感じました。そんな手紙をさらっとつづれる女性になりたいなと思ったのです。

 万年筆のインクや筆の墨のにじみが味わいとなり、相手にこちらの心まで届くのが手書きのよさだと思っています。筆を持てば自然に背筋が伸び、きれいな姿勢、美しい所作にもつながります。

――その他に秘書という仕事をするのに役立つ資格はありますか?

島倉 お茶の出し方や所作が身に付くと先輩秘書から教わった茶道を習っています。また、正しい日本語を話せるようになると先輩から聞いて、話し方や電話応対のセミナーを受講しました。女性社員のお手本にならないといけないと、以前、上司に指摘されたことから、メイクアップやマナーセミナーにも参加しました。資料作りや、上司のフォローをするためにパソコンや語学のスキルも大切だと思います。

伊田 秘書の仕事に役立つ資格というと、島倉さんも挙げた茶道の他、華道、着物の着付けなど日本の伝統文化を伝えるものでしょうか。中でも、私は茶道を習っていてよかったと感じたことが何度もありました。

 茶道は、その作法すべてに意味があり、同席者への心配り、おもてなしの心が込められています。例えば、狭い茶室に入るとき、にじって移動するのは、ほこりを舞い上がらせたり、お道具を誤って壊したりする危険があるからです。茶道のどの作法も日常の生活で役立ち、秘書業務で必要な想像力、コミュニケーション力にもつながります。

 秘書は、接待やご招待でさまざまな場所に招かれることがあります。大使館、政財界の方々が集まるパーティーなどどこへ行っても物おじしない立ち居振る舞いや会話術が必要になりますが、茶道を通して日本の歴史や文化を知り、日本の美を知ることで、所作や会話術が自然に身に付いていきます。

添畑 私は3歳の頃から日本舞踊を習っていました。基本的な所作を学ぶので、日本舞踊もおすすめですね。

竹内 語学やマナー、経営に関係する学び事は当たり前として、私は今後秘書として必要となってくることが3つあると思います。

 1つ目は国際儀礼(プロトコル)です。プロトコルとは、国家間の儀礼上のルールのこと。日本人はプロトコルに対する認識や知識が乏しいのですが、海外との折衝が増えてくる今後、秘書がプロトコルを習得しておかないと、公の場で上司に恥をかかせてしまう可能性が非常に高いと思います。

 例えば、会食の席でプロトコル上はどちらが上席か、上司のネクタイの柄と色はTPOに合っているのか。ドレスコードが「フォーマル」となっているパーティーで上司に何を着てもらえばよいのかなど。会社の顔となる上司が誤った服装や立ち居振る舞いをして後ろ指を指されないよう、秘書はこれをしっかり学んで影でサポートしなくてはなりません。

 2つ目は、イメージコンサルティングです。社長や企業の上層部としての正しい装いや立ち居振る舞いがどうあるべきかを知り、上司サポートするということです。

 会社の顔となる上司の髪がボサボサでスーツにはしわが寄り、スーツやネクタイは肌写りの悪いものを身に着けていたとすると、その会社のパフォーマンスが疑われてしまいます。上司のよさを最大限に引き出し、その場に合った立ち居振る舞いをしてもらうために、秘書が上司のコーディネートをすることは重要です。例えば、取材や講演が多い上司であれば、おのおのの内容に沿ったイメージの色のスーツとネクタイを身に着けてもらえるよう、秘書は事前準備をし、当日も現場でサポートしなくてはなりません。

 そして3つ目は、コーチングです。コーチングとは社員のやる気を引き出す米国発の手法です。何度もお話が出ていますが、秘書は高いコミュニケーション能力が必要となります。コーチングを学ぶことで、コミュニケーション能力、ビジネススキル、メンタルタフネスなど秘書には欠かせない素養を身に付けることができます。

 営業や企画の社員とは異なり、秘書とは日々の業務を数値化して評価を受けることが難しい仕事です。でも、コーチングを学ぶことにより、自らの目標やゴールを設定することができ、受動的になりがちな秘書の働き方から能動的な働き方へ変えていくことができると思います。

文/大塚千春 写真/稲垣純也 取材協力/こちら秘書室、天現寺大使館


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