確定診断は神経内科でされることがほとんど

――本当にいろいろな症状が現れるのですね。ただ、例えば、疲れは日常で感じることもありますし、しびれや視覚の問題などはほかの病気で起こることもあります。区別が難しいと思うのですが、どのようにして、多発性硬化症と診断されるのでしょう?

視力が低下する、感覚が鈍くなるなどの症状が現れても診断までに時間がかかることがあります。(©habun-123rf)
視力が低下する、感覚が鈍くなるなどの症状が現れても診断までに時間がかかることがあります。(©habun-123rf)

大橋:確かに、これらの症状から、患者さん自身が多発性硬化症を疑って受診することはまずありません。多発性硬化症は神経内科の領域ですが、例えば、しびれや歩行障害があれば整形外科や脳外科、視覚に問題があれば眼科といった具合に、最初は症状に近い診療科にかかることがほとんどです。

 診断の決め手となるものとして、脳や脊髄のMRI(磁気共鳴画像診断装置)検査が挙げられます。MRIでは炎症を起こした部分が、白く特徴的に映し出されます。これが多発性硬化症に典型的な所見であれば、ほぼ判断がつきます。ただし、多発性硬化症と似た症状や画像所見の病気も多いので、その可能性を除外するために、髄液検査や血液検査といったほかの検査も行ってから診断を確定することになります。

 神経内科以外の科を受診した場合も、脳や脊髄のMRI検査をして、多発性硬化症らしき所見があれば、神経内科に紹介されることもよくあります。

 一方、見えにくさを感じても受診しないで治ってしまったり、しびれなどが出て整形外科を受診しても、レントゲン写真で異常がないとされたりする経過をたどり、なかなか多発性硬化症にたどり着かないケースもあります。また、MRI検査で疑わしい所見が見られても、確定診断に至らない場合は、繰り返しMRI検査をして変化を確認することが必要になることもあります。場合によっては診断までに時間がかかることも覚えておいてほしいと思います。

――多発性硬化症と診断されると、どのような経過をたどるのでしょうか。

大橋:患者さんの多くは、初めて症状が出たあと、症状が一時的に改善する「寛解(かんかい)」と、症状がひどくなったり、新たな症状が出たりする「再発(急性増悪)」を繰り返し、その後、徐々に症状が悪化していきます。

 再発と寛解を繰り返すものの、症状の進行が見られない時期は「再発寛解型MS」と呼ばれ、症状が徐々に悪化して進行するようになると「二次進行型MS」と呼ばれます。再発寛解型MSと診断された患者さんのうち、約8割が二次進行型MSに移行するといわれています。ただ、経過は人によって様々で、再発の間隔も異なります。おおよその目安では、10~20年程度で二次進行型MSに移行していくことが多いようです。その間、脳の萎縮も徐々に進んでいくので、認知機能なども低下していきます。

【MSのタイプと症状の現れ方】

・再発寛解型MS
急に症状が現れるが、再発と再発の間では寛解している。後遺症が残ることがあるが、明らかな症状の進行はみられない。二次進行型MSに移行するまでに10~20年かかる。

・二次進行型MS
再発寛解型の後、徐々に症状が進行していく段階。

・一次進行型MS
再発寛解の時期を経ず、初期から病状が徐々に進行していく。進行が一時止まったり、わずかに改善したりすることがある。

――多発性硬化症の治療法にはどのようなものがありますか。

大橋:現在のところ、根治にいたる治療法は確立されていません。ただ、早期に診断することで、再発を抑えたり、進行を遅らせたりすることはできます。

 症状が激しく出ている再発期(急性増悪期)には、病巣の炎症を抑える高用量のステロイドの点滴を行うのが一般的です。症状が治まっている寛解期には、再発や進行を抑えるために、インターフェロンβという注射剤などでの治療を行います。

 近年ではグラチラマー酢酸塩(商品名コパキソン)が発売、フマル酸ジメチル(テクフィデラ)が承認される予定であり、治療の選択肢は広がっています。