飲酒は乳がんの発症リスクを高める

 「アルコールは乳がんの発症リスクを高めます。お酒を飲む人と飲まない人に分けて症例対象研究をした結果がいくつも出ているのですが、どの研究でも、飲まない人に比べてお酒を飲む人の方がリスクが高まるという結果が出ています。そして飲む量が多くなるほど乳がんの発症リスクは確実に高くなると言われています」(中村教授)。

 中村教授ははっきりとこう言った。酒を飲むほど乳がんのリスクが上がるなんて、左党の女にとっては他人事ではない。

 世界的に権威のある世界がん研究基金(WCRF:World Cancer Research Fund)、米国がん研究協会(AICR:American Institute for Cancer Research)によるエビデンスグレードでも、リスクは「ほぼ確実」と判定されている。これは「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」「証拠不十分」「大きな関連なし」という5つのグレードの中の上から2つめ。アルコールが乳がんに及ぼす影響はただものではないようだ。

 「WCRFが2007年に出版した報告書でも、『アルコール飲料が閉経前乳がんと閉経後乳がんの原因になるというエビデンスは確実である』と発表されています。リスク増加の度合いは、6~10%と決して高くはありませんが、アルコールが乳がんの発症リスクを高めるのは間違いないでしょう」(中村教授)。

 国立がん研究センターが、国内で日本各地の40~69歳までの女性約5万人を対象にして13年間にわたって行われた多目的コホート研究の結果でも、「アルコール摂取量が多いほど、乳がんになりやすい」という結果が出ている。特に週にエタノール換算で150gより多く飲むグループは、全く飲んだことがないグループに比べ、乳がんの罹患率が1.75倍も高いという結果になっている。

飲酒と乳がん罹患との関係。「飲んだことがない」人と比べたときの発生率の違いをグラフ化した。国立がん研究センターが、国内で日本各地の40~69歳までの女性約5万人を対象にして13年間にわたって行われた多目的コホート研究の結果(Int J Cancer. 2010 Aug;127(3):685-695)
飲酒と乳がん罹患との関係。「飲んだことがない」人と比べたときの発生率の違いをグラフ化した。国立がん研究センターが、国内で日本各地の40~69歳までの女性約5万人を対象にして13年間にわたって行われた多目的コホート研究の結果(Int J Cancer. 2010 Aug;127(3):685-695)

※多目的コホート研究とは、年齢や居住地など一定の条件を満たす特定の集団で行われる研究のこと。

なぜアルコールは乳がんのリスクを高めるのか

 ううむ、国内外での研究からリスクの存在を指摘されてしまうと、さらに気弱になってしまう。では一体、アルコールに含まれる何が乳がんの罹患率を高めてしまうのだろう?

 「アルコールと、アルコールが分解される際に生成されるアセトアルデヒドが持つ発がん性、アルコールの代謝に伴う酸化ストレス、性ホルモンレベルの増加、葉酸(DNA合成・修復に必要)の欠乏など、さまざまなことが要因として指摘されています。ただし、実際には明確な理由がわかっていないのが現状です。コホート研究のデータを見ても、アルコールの量が増えると乳がんの発症リスクが高くなるのは明らかですが、現状では正確な量までは確定できていません」(中村教授)。

 なるほど、現時点では、正確な因果関係はわかっていないようだ。だが、酒量が多くなるにつれ、発症リスクが高くなるのだから、飲酒量を増やさないに越したことはない。では、酒量はどのくらいに抑えるといいのだろうか。中村教授によると、「あくまで目安ですが、一般的に、日本酒なら1日1合以内、ビールなら中ジョッキ1杯、ワインならグラス2杯くらいならリスクは少ないと言われています。ただし、これも明確な裏付けがあるデータではありません。先ほども話したように、多ければ多いほどリスクは高まりますので、飲み過ぎには注意が必要です」とのこと。

 では、「お酒に強い弱い」というアルコールに対する耐性は影響するのだろうか。「明確なメカニズムがわかっていないので、あくまで推測ですが、アセトアルデヒドが原因の一つにあげられていますので、アルコールの分解能力が低いお酒に弱い人の方がリスクが高まる可能性があります」(中村先生)。お酒に弱い人に、お酒を無理に飲ませてはいけないというのは、こうした点からも言えることなのだ。