なぜ家康は「米をふやかせ」と厳命したのか

 その命令は2つの意味で理にかなっている、と永山さんは言う。1つは、たとえ火を使って炊飯できなくても、水でふやかせば消化がよくなるという点だ。消化の悪い生米、しかも、現代のような白米ではなく、精米をしていない玄米をそのまま食べて腹を壊したら戦いどころではない。だが、水でふやかせば消化がよくなって栄養の吸収がよくなり、エネルギーが素早くとれるというわけだ。

 水に漬けるもう1つの利点は、玄米の成分であるGABA(ギャバ)が増えることだ。GABAはアミノ酸の一種で、血管を広げて血圧を下げる作用があるとともに、神経の興奮を抑える効果があるともいわれている。血なまぐさい戦いを終えたあとで、精神を安定させることは重要だったはずだ。

 もちろん、家康がそうした科学的なメカニズムを知っていたわけではないが、健康に関心が高かったために、経験的に気が付いていた可能性はあるだろう。

 「天下を取ってからも、家康は健康に気を配っていました。ぜいたくを戒め、麦飯を中心とする粗食を励行すると同時に、鷹狩りで仕留めた鶴、鴨、雉、山鳥などの肉も適度に食べて、バランスよく栄養をとり健康を維持していたのです。また、漢方薬についてもよく学び、薬草園を作ったほどです」(永山さん)。