過去や未来でなく、「今」を大切にする

 日本マインドフルネス学会によると、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義されている。

 「簡単にいえば “今を大切にする” ということです。私たち人間は、過去の嫌な出来事を思い出して病気になったり、まだ分からない未来のことを思い煩っては病気になったりするもの。ストレスをわざわざ自分でためてしまうわけです。幸せに生きるには、そうした過去や未来のしがらみから離れることが大切です」(越川さん)。

 私たちは、たとえば仕事上の問題で悩ましい時期が続いていても、好きな趣味に没頭している間は、そんな悩みも忘れてしまう。それと同じように、私たちの注意を今の時点に集中させることができれば、過去の失敗も未来への不安も浮かんでこなくなるというわけだ。

 「今、成果を出すべきことがあったときに、余計なことを考えず、今ここにうまく注意を戻すことができたなら、私たちは大きな可能性を手にすることができますよね」(越川さん)。

 確かにその通りだ。勝負のかかったプレゼンや試合など、ここぞというときに余計なことを考えず、ただ目の前のことに集中してベストなパフォーマンスを発揮できれば、そんな素晴らしいことはない。そして、それを実現に近づけてくれる手法がマインドフルネスなのだという。

 マインドフルネスを実践する方法はいろいろあるが、そのなかでもビジネスパーソンが実践しやすいのが「呼吸瞑想」だ。瞑想といっても大げさなものではなく、時間があるときに1日5~10分行うだけでもよいという。

 ここで、越川さんに教えていただいた誰でも手軽にできるマインドフルネス瞑想の方法を紹介する。

マインドフルネス瞑想で「心の筋肉」を鍛える

 呼吸瞑想は、「自分の呼吸に意識的に注意を集中する」瞑想の方法だ。「上手にやろうと思わずに、好奇心をもってやることが大切」と越川さんはアドバイスする。

【呼吸瞑想の方法】

1.背筋を伸ばしてイスに座る
 足を肩幅に開き、肩の力を抜く。

2.視線を斜め前に落とす、または目を閉じる

3.自然に呼吸し、注意を呼吸に向ける
 いわゆる呼吸法をする必要はなく自然に呼吸し、息を吸ったときに、お腹の皮が上がって、皮膚が少し引っ張られる感覚を感じる。吐いたときにそれが緩む感覚を感じる(そこにある感覚を味わう感じ)。

4.注意がそれたことに気づいたら、何に注意がそれたのかをそっと心にメモして、注意をまた呼吸に戻す (※1~4を最初のうちは5~10分ほど繰り返す)

 呼吸に意識を集中しているつもりなのに、やがて仕事や家族のことなど、さまざまな雑念が湧いてくるだろう。そのたびに、呼吸に意識を戻すのだ。

 「ここで大切なのは、『しまった、また雑念が湧いてしまった』などと自分を責めるのではなく、雑念が湧くのは心の性質なので気にせず、ただ“淡々と戻ってくる”ことです。『雑念が浮かぶ → 浮かんだことに気づく → 何が浮かんだかを心にメモして淡々と戻る』を繰り返すことで、実生活においても自分の注意をいつでも『今』に戻すことができるようになります。これは、筋トレと同じ。腹筋を鍛えるのと同じように何度も繰り返して訓練をすることで、いわば『心の筋力』を鍛えるわけです。そうして『心の筋力』を鍛えることができれば、日常生活や仕事においても、態度や気分をコントロールしやすくなります」。