CFSを取り巻く現状と今後

 2015年、CFSについては米国で新たな動きがあった。米国医学研究所(IOM)により、「全身性労作不耐性疾患」(systemic exertion intolerance disease=SEID)という新しい疾患概念が提唱されたのだ。これはつまり、CFSの疾患概念・疾患名を変更し、診断基準も見直そうというものだ。この疾患は国民の健康を損なう重要な身体疾患であり、全米の神経内科医はこの診断・治療を行っていくべきという勧告も示された。

 「全身性労作不耐性疾患」の診断基準は、【1】疲労を中心とする体調不良が6カ月以上持続するために、社会生活に著しい支障をきたしている、【2】これまで問題なくできていた軽度の作業で著しく体調が悪化する、【3】熟睡感や回復感を伴わない睡眠――の3つの症状が必須条件としてあり、かつ、(1)認知機能の低下(思考力、集中力、記銘力の低下など)、(2)起立性調節障害(起立時に血圧低下、頻脈とともに、めまい、動悸、発汗異常などが起こる)のうち、どちらかを満たすものとされた。

 ただ、これについては賛否両論の意見がある。「国の機関がCFSを正式に身体疾患と認めて、今後取り組む姿勢を明確したことは大きな一歩であり、高く評価できます。しかし、診断基準をこのようにシンプルにまとめることで、多様な病態がSEIDに含まれてしまい、病気の本体が見えにくくなるリスクも指摘されています。まだ、統一見解はできていませんが、今後はSEIDの臨床診断基準が世界中で用いられることが予想されますので、日本においても対応できるように準備しておく必要はあります」(倉恒さん)。

 日本でも、グローバルスタンダードの観点からSEIDの臨床診断基準を取り入れた臨床診断基準の作成が進められており、また2017年度には厚生労働省研究班からCFSの治療ガイドラインが発表される予定だという。さまざまな研究の成果をもとに、CFSの診断・治療、そして患者を取り巻く状況が、少しでも改善することを期待したい。

この人に聞きました
倉恒弘彦
倉恒弘彦(くらつね ひろひこ)さん
関西福祉科学大学健康福祉学部教授、東京大学特任教授
1987年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。2003年より現職。同年より大阪市立大学客員教授。2009年より東京大学特任教授。厚生労働省「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班代表研究者、日本疲労学会理事などを務める。著書に『危ない!「慢性疲労」』(共著、NHK生活人新書)など。

文/塚越小枝子

日経Gooday「半年以上続くこの疲れ、もしかしたら“慢性疲労症候群”?」を転載

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