「休め」という警告を無視して働き続けると?
疲労感を覚えたら、一旦活動を休止して休息するというのが健全な状態だ。とはいえ、現実的には「分かっていてもなかなか休めない」という人も多い。「休め」というアラームを無視して働き続けると、「細胞の傷が修復できなくなり、心筋梗塞や脳血管障害などの深刻な事態に陥ることもある」と倉恒さんは言う。
そうした疲労のメカニズムをもう少し詳しく見てみよう。
ストレスは、体の神経系・免疫系、内分泌系のシステムに絶えず影響を与えているが、通常は体にひずみが生じても修復され、この3つのシステムが大きく崩れることはない。
しかし、修復能力を超える強大なストレスや、長期間にわたりストレスがかかると、次第にナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫力が低下して、ウイルスに対する抵抗力が弱くなる。すると体に潜在していたウイルス(ヘルペスウイルスなど)が元気になってきて、口唇ヘルペスのような発疹ができたり、風邪を繰り返したりする(ウイルスの再活性化)。
こうなると免疫系は防御体制を発令して、体を守るための免疫物質をつくり出す。この免疫物質はウイルスを抑えるのには有効だが、脳に悪影響を与える。それが、なかなかとれない疲れや不安・抑うつなどの症状を引き起こすのだという(図1)。
「最近の研究で、このような免疫物質は脳の中でもつくられていることがわかってきました。免疫物質が脳内でつくられると、セロトニンなどの神経伝達物質を介して行われる情報交換がうまくいかなくなり、さまざまな慢性疲労の症状が現れるのです」(倉恒さん)。
長年の疲労研究の成果により、さまざまな疲労に伴う症状には、脳の機能異常が関係していることが明らかになってきている。機能異常が起こる脳の部位と、全身の痛み、疲労感、抑うつなど、現れる症状との相関もわかってきており、これからは脳の画像で疲労を診る研究が進むとみられる。
セロトニンなどの神経伝達物質による脳内の情報交換がうまくいかなくなると、疲れているのに疲労感を自覚できなくなることもある。いわば「疲労感なき疲労」だ。
「周囲からほめられて一時的に達成感を味わったり、自分は必要とされていると思うと、脳の中で快楽を司るドーパミンや、怒りのホルモンといわれるノルアドレナリンなどの神経伝達物質が増え、疲労感が覆い隠されてしまうのです」(倉恒さん)。
実はこの「自覚なき疲労」が危険だと倉恒さんは指摘する。