有能な宏美さんは20代半ばで一念発起して、現在の勤め先である大手メディア企業に正社員としての転職を果たします。中途入社の採用試験はかなりの狭き門だったはずですが、優秀な成績で突破したようです。

 「もともと女性が少ない職場なので、入社後も男性とは違った苦労をしているんですよ。ある男性上司に目をかけてもらっていたら同世代の女性の反感を買ってしまい、一番気を許していた女性から『あなたは自分の得することしか考えていない。嫌な女だ』といった内容のメールを送りつけられたことがあります。ショックでしたね。私は女性の機微に疎いのでしょうか。私が楽しそうにしていると面倒臭いことになる、と思い込んでしまいました」

 僕と宏美さんは初対面ではありません。とてもオシャレで気遣いもできる素敵な女性なので、飲みながらのインタビューをさせてもらっています。しかし、以前から少し気になっていたことがありました。宏美さんはとても付き合いがいいのに、実際に面と向かうと奥歯に何かが挟まったような話し方をするのです。本当は何が言いたいのか、何が好きで何が嫌いなのかがわかりにくいし、聞き出すまでに時間がかかります。メールでのやり取りからは論理力やボキャブラリーに問題があるとは思えません。

手塚宏美さん(仮名、39歳)<br>昭和の香りが漂う大衆居酒屋がなぜか似合う女性です
手塚宏美さん(仮名、39歳)
昭和の香りが漂う大衆居酒屋がなぜか似合う女性です

 他の人がいるときも同じです。気遣いをしてくれるのはいいのですが、仕事でもないのに妙な遠慮をすることがあります。例えば、女性と嬉しそうに話している男性には声をかけません。自分も興味があるならば話に混ぜてもらえばいいのに……。

 今回のインタビューで僕は悟りました。宏美さんがときどき不明瞭な印象を他人に与えてしまうのは、元来の性格も少しはあるかもしれませんが、懸命に働く独身一人暮らしアラフォー女性の苦労が蓄積した結果なのだ、と。明日からは宏美さんが「とても情けない」と自嘲する恋愛状況を伺います。