東京・西荻窪にある個人経営の喫茶店に来ています。フリーランスで生計を立てている人が多く住む町なので、平日の日中でも働き盛りの大人たちがコーヒーを飲みながら本を読んだり打ち合わせをしたり。僕は再婚して愛知県に引っ越すまではこの町に足かけ8年間ほど住んでいました。今でも気軽に付き合えそうな人はこの町に誘って食事をしたりしています。

 この店で向かい合っているのは、フリーの人事コンサルタントをしている山口慶子さん(仮名、41歳)です。高学歴高収入の美人で独身の慶子さん。前回は、16年間も付き合っていたヨウイチさんと20代の頃に結婚しなかった理由について伺いました。

 2年前に同棲を解消し、友だちに戻る決断をする直前にも、慶子さんはヨウイチさんからプロポーズをされました。でも、慶子さんは結婚に踏み切ることはできなかったそうです。

 「彼のがんばり過ぎている姿を見るのが辛くなってしまいました。ある日、珍しく酔って言ったことが忘れられません。『オレは何をやっても慶子に勝てない。俺って要る?』と。彼は学歴や収入が私よりも低いことをずっと気にしていました。同棲をしていたのも私が買ったマンションです」

山口慶子さん(仮名、41歳) 「活字とコーヒーは生活に欠かせません」
山口慶子さん(仮名、41歳) 「活字とコーヒーは生活に欠かせません」

 小さい男だなとヨウイチさんを笑うことは僕にはできません。僕は34歳のときに離婚をした経験がありますが、その原因の一つは前妻の親が建ててくれた二世帯住宅に移り住んだことでした。自分の家ではないという現実が、「男性としての責任やプライド」のようなものを失わせるとは思ってもいませんでした。