やり方はシンプルだ。患者の家族などから提供された便を、生理食塩水で溶かしてフィルターで濾すなどの処理を施し、大腸内視鏡を使って患者の腸内に注入する。これに先立ち、3種類の抗菌剤を2週間服用しておくのが、順天堂方式だ(下図)。「抗菌剤によって腸内細菌の大半がいなくなる。そこに便提供者の膨大な数の腸内細菌が入り込み、腸内環境が劇的に変わる。FMT単独より、抗菌剤を併用したほうが治療成績がいい」と石川助教。
それにしても、なぜ便移植で症状が改善するのか。潰瘍性大腸炎の人は健康な人に比べ、腸内細菌の種類が少なく、またある菌だけが突出して多いなどバランスがよくないという。「FMTで、腸内細菌の多様性や均等性が向上することが分かった。また腸内細菌叢(そう)の劇的な変化によって免疫の働きが改善する可能性もある」(石川助教)。
FMTは外来で行われ、最低3回の通院が必要。費用は臨床研究なので、検査費など一部負担ですむ。同科では今後2年間でさらに50人を受け入れる予定だ。なお同様の臨床研究は下記の施設でも実施されている。
文/佐田節子、イラスト/平 拓哉
日経ヘルス 2015年11月号掲載記事を転載
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助教
石川 大
専門は潰瘍性大腸炎などの消化器内科。FMT臨床研究の責任者を務める。「腸内細菌は腸だけでなく、全身の健康状態に関係している。海外では大腸炎以外に肥満や糖尿病、動脈硬化などの治療にもFMT の応用が検討されている」。
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