「呼吸を数える」はどんな感情にも万能
おそらく、トイレに立とうとしたあなたを、長女キャラが「逃げるの?」「他の人が見てるよ」「状況、もっと悪くなるよ」と言ってくるでしょう。ここでつぶやいてほしいのが、冒頭の呪文です。
逃げてるんじゃない。赤から青に下げてるんだよ。
今は赤コンピューターの状態だから、最優先すべきは感情のレベルを一段階下げること。
トイレの個室に入って、ただただ、呼吸を数えます。「い~ち」「に~」とゆっくりと呼吸の数を数えながら深く呼吸をする。すると、感情の勢いが少しずつ、和らいできます。起こった出来事に集中していた意識が、「呼吸を数える」ことに向いてきたためです。
この「呼吸を数える」というやり方は、怒り、不安などどんな感情に向き合ったときにも有効で、カウンセリングの場でもクライアントにおすすめしています。
赤コンピューターから、感情のレベルが下がったときに、「長女キャラ」以外のいろんなキャラクターが登場してくるはずです。
「ちゃんとやったことは他の人も評価してくれるよ」「今回の場合、職場ですぐに相談するべき人は誰?」「落ち着いて対処すれば大丈夫。明日にはきっと笑顔になってるよ」――こんなふうに、いろんな声が聞こえてくるはず。前回お伝えした「こころの会議」を開くことができるようになり、あなたを大きく包み込む存在をイメージできたら、勇気を持ってプロセスを前に進めることができるようになります。
私自身も、自分が赤コンピューター状態になったときに「呼吸を数える」を実践しています。
薄い赤コンピューター状態ぐらいに感情を下げると、「ああ、さっき思っていたことはほぼ間違いだったなぁ」と思うことが多いことを痛感しています。冷静でなくなったときに、人はすごく偏ったものの見方をし、その視点で出した答えからなかなか抜け出せなくなる。冷静さを失ったときに「あの人は自分を陥れようとしている」などと思うものですが、冷静さを取り戻すと、「いやいや、それは違うな」と笑えるようになります。
私が心理教官をしていた自衛隊でも、「人の命に関わることの場合は、瞬時に、一刻を争うモードで対応しなくてはいけない。しかし、10分早く出ようが大差がないというようなときは、焦って行動すると失敗のもとである。まずは落ち着くことを最優先に」というルールで行動をしていました。
最後に、今回の話とも共通する、「江戸の火消し」の話を紹介しましょう。
江戸の火消しが一人前になり、リーダーを務められるようになるのは、次のような行動ができるようになったときだったそうです。火事は、人が焼け死ぬような緊急事態。それでも現場に着いたら、リーダーはその火事の火で、たばこをぷかーっと吹かすのです。一本吸う間に、風向きや水のかけかた、家の構造など状況を見渡し、よし、と周囲に行動を指示する。素人は目の前のことしか見ることができない。しかし、トラブルに賢く対応できる人は、感情レベルを下げ、状況を見渡してから行動したほうが最大の効果を得られることを知っているのだ、という優れたエピソードだと思います。
文/柳本操 写真/PIXTA