皆さんも日々実感していることでしょうが、世の中には「100か0か」の分かりやすい2択はほとんどありません。

 ビジネスでもプライベートでも、数ある選択肢をてんびんに掛けて、自分にとって最善と思われるものを苦労しながら選んでいるはずです。医療も同様で、医療は確率そのものでもあります。

 選択肢が複数ある場合、リスクを十分説明した後に、良い結果になる可能性が高い選択肢をオススメする。その結果、新しい状況が生まれれば、それに応じて可能性が高い選択肢をオススメする。この繰り返しです。医療者にできることは、実はそれ以外にほとんどありません。

 その際に重要になるのは、やはり、具体的な数字です。具体的な数字があれば、選択をすることはがぜん、容易になるでしょう。漠然としたイメージや不安感、間違った情報を基に判断することは避けなければなりません。

 「結局、HPVワクチン問題についてどう思うのか」と問われれば、私はそれぞれのリスクをきちんと理解した上で、ワクチンを打つことをオススメします。ここだけ押さえれば、がんのリスクを減らせるなどというズバ抜けて効率的な医療は、現実にはめったにないからです。

 HPVワクチン問題について、厚生労働省が煮え切らない態度を取り続けていることも、状況を複雑にしている一因です。

 いろいろな事情はあるのでしょうが、この問題に限れば、公的機関としての責任を果たしているとは言えません。そして非常に困ったことに、厚生労働省が見解を出していないからといって、この問題を棚上げにしていいわけでもありません。

 特に接種対象の年齢の少女がいる家庭は、判断を迫られていると考えたほうがいいでしょう。厚生労働省のスタンスはあくまで、積極的な接種勧奨(=ポスターやハガキによる接種の呼びかけ)を一時的に差し控えているだけであり、実は依然として、HPVワクチンは定期接種の対象であり、希望すれば普通に接種できるのです。

 重要度の低い問題であれば、判断を保留して様子を見る選択肢もありますが、この場合だとそれは、子宮頸がんのリスクを取ることになってしまいます。一般の人にとっては、非常に難しい状況でしょう。自分のことなら仕方ないと諦められても、対象者が大切な家族であれば話は別です。家族で率直に話し合って、最良の選択を下すことを祈っています。

絵・文/近藤慎太郎
絵・文/近藤慎太郎

絵・文/近藤慎太郎

【「がん」についての他の記事も読む】
「30代から要注意の子宮頸がん リスク減らす方法二つ」
「女性罹患数 断トツの『乳がん』3つのリスクを解説」
「乳がん検診でも見つからない場合も 絶対やるべきこと」


「医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方」

著者:近藤慎太郎(絵と文)
出版社:日経BP社

 ■ Amazonで購入する

■参考文献
(1)厚生労働省HP
(2)Aklimunnessa K et al. Effectiveness of cervical cancer screening over cervical cancer mortality among Japanese women. Jpn J Clin Oncol 2006; 36:511-8
(3)Rijkaart DC et al. Human papillomavirus testing for the detection of highgrade cervical intraepithelial neoplasia and cancer: final results of the POBASCAM randomised controlled trial. Lancet Oncol 2012;13:78-88
(4)Suzuki S et al. No association between HPV vaccine and reported postvaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Papillomavirus Res 2018;5:96-103
産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2017
有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン
村中璃子『10万個の子宮』平凡社