転換期にある世界の検診方法

 その前に、二次予防である子宮頸がん検診について解説します。

 頸がんは子宮の入り口にできるので、婦人科診察で検査がしやすいという大きなアドバンテージがあります。膣を経由して綿棒のようなものを入れ、子宮頸部をこすって細胞を採取し、悪性の細胞がないかどうかを顕微鏡で確認します(これを細胞診と言います)。細胞診は、子宮頸がん検診として広く行われており、頸がんの死亡率を60%程度下げることができると報告されています。

 非常に有用な検査なのですが、実は海外では頸がん検診は転換期を迎えています。

 細胞診から、HPVのDNAなどを調べる検査(以下、HPV検査)が主流になりつつあるのです。

 前述したように、頸がんの発症にはHPVの持続感染が深く関わっています。そのため全員一律に細胞を採るのではなく、まずは現在HPVに感染しているかをチェックして、HPV陽性のハイリスクグループだけに、精密検査を行いましょうという発想です。合理的と言えば合理的です。

 実際に病変を検出する感度も、細胞診よりHPV検査のほうが高いことが報告されています。

 HPV検査だけだと、HPV陰性の頸がん患者を見逃すのではないかと懸念されていました。しかしオランダの大規模な臨床試験において、細胞診単独、HPV検査単独、細胞診+HPV検査併用の3群を比べたところ、見逃す可能性が一番高いのは細胞診単独で、他の2群では変わらなかったという衝撃の結果が報告されたのです。

 つまり、HPV検査単独で十分で、それに細胞診を加えても上乗せ効果がほとんどないということです。

 こういった結果を受けて、オランダ、イタリア、イギリス、スウェーデン、オーストラリアなどはHPV検査単独の子宮頸がん検診を取り入れつつあります。

 一方、日本ではいまだに細胞診が主流であり、HPV検査と併用検診の検証を行っている段階です。日本独自のデータで確かめたいのでしょうが、日本の医療が世界の潮流から外れていくのではないかと懸念している専門家は、少なくありません。これについては次回、じっくりとお話ししたいと思います。

絵・文/近藤慎太郎


「医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方」

著者:近藤慎太郎(絵と文)
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■参考文献
(1)厚生労働省HP
(2)Aklimunnessa K et al. Effectiveness of cervical cancer screening over cervical cancer mortality among Japanese women. Jpn J Clin Oncol 2006; 36:511-8
(3)Rijkaart DC et al. Human papillomavirus testing for the detection of highgrade cervical intraepithelial neoplasia and cancer: final results of the POBASCAM randomised controlled trial. Lancet Oncol 2012;13:78-88
(4)Suzuki S et al. No association between HPV vaccine and reported postvaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Papillomavirus Res 2018;5:96-103
産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2017
有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン
村中璃子『10万個の子宮』平凡社