日本のHPVワクチン接種率は激減している

 遺伝因子や環境因子が複雑に絡み合って発症するその他のがんと違って、感染症にしっかり対処するだけでリスクを減らすことができるのであれば、こんなにありがたいことはありません。

 HPVの場合、残念ながら既に感染したHPVを体から強制的に駆除する薬はありませんが、ワクチンの接種によって感染を未然に防ぐことができます。

 HPVには100種類以上のサブタイプがあり、そのうちの約15種類(特に16番と18番)が、頸がんのリスクを上げることが分かっています。

 それらに対して、日本では2価ワクチン(16、18番を予防)と4価ワクチン(6、11、16、18番を予防)が使用可能で、標準的には中学1年生になる年度に合計3回接種します。海外ではそれに加えて、9価ワクチン(6、11、16、18、31、33、45、52、58番を予防)も登場しています。

 ワクチン接種によって、頸がんの「前がん病変」を90%以上予防できると考えられています。

 ここで、「なぜ頸がんを○%予防できる、と言わないのか」と疑問を感じた人もいるはずです。HPVワクチンは、世界的には2007年ごろから導入が始まっているので、頸がんの発生率の差が出るまでは時間がかかるのです。

 しかし、たとえ今のところエビデンス(科学的な証拠)が前がん病変までだったとしても、HPVワクチンの効果は明らかであり、海外では積極的に接種が行われています。

 一方、日本ではHPVワクチンを接種する人の割合は1%以下です。なぜ、そのような状況になったのでしょうか。この経緯は、後ほどしっかりと解説します。