「間」は次の「有」を生み出す「無」
一調・二機・三声を私なりに言い換えれば、「間(ま)」だと思います。
「この商品はなんと2万9800円。分割金利手数料はジャパネットが負担します」
通販番組の中で私が何千回、もしかしたら何万回と言ってきたセリフです。皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
何の気なしに話しているように聞こえたかもしれませんが、私は値段と金利負担ゼロの言葉の間に、「間(ま)」を置いていました。恐らく2秒か3秒。わずかとも思える数秒の差でも、間があるかないかでお客様からの反響に大きな差が出ます。値段を言った後、数秒でも間を置くことが結果的にお客様の背中を押すのです。
「安いです」「特別です」「売れています」「値段はこうです」と、自分の言い分だけを連呼していたら、絶対と言っていいほど売れません。このため、情報を目いっぱい詰め込むのではなく、必ず意識的に間を入れていました。
効果的に間を入れるため、常に、テレビやラジオの向こうにいるお客様の姿を思い浮かべます。そして紹介する商品や、それこそ当日の天気などによって、話すスピードやテンポ、声のトーン、どこでどれくらい間を入れるべきかを研究しました。
これは1分30秒など短い時間のテレビCMでの商品を紹介する場合でも変わりません。お客様に1秒でも0.5秒でも考える時間を与えることが必要なのです。間は次の有を生み出す無なのです。世阿弥が「花鏡」の中で全く同じことを主張しているのを知った時は、本当に驚きました。
間の大切さは、売り手と買い手、役者と観客の関係だけにとどまりません。
私は2017年4月、経営難に陥っていたサッカーJ2(当時)のクラブチーム、V・ファーレン長崎の社長に就任しました。
現在、クラブの裏方のスタッフは30人弱。既存の社員が半分、もう半分はジャパネットからの出向組と新規採用の社員です。いわば急ごしらえの混成チームにもかかわらず、非常によくまとまっています。だからこそ2016年はJ2リーグで15位に沈んだチームが、17年には2位になり、初のJ1昇格を果たすという快進撃を見せられたのだと思います。
ただ、前からいた社員は当初、オーナーが代わることに不安を感じていたようです。こんなとき、どうすれば社員の心を解きほぐし、前向きになってもらえるか。私は何より言葉の力だと思っています。そこで、社員の皆さんとコミュニケーションを図ることを心掛けました。選手に対しても同じです。