あなたの就活の「以前」と「以後」を重ね合わせよう

(C)PIXTA
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 『何者』の主人公・拓人も悩み続けます。内定が取れず、のたうちまわる。「あきらめたふりをしてあきらめきれない」「君は他の子と違って面白い考え方をするね」なんて評価されることを期待している」「痛くてカッコわるい姿であがき続けることを拒絶している」そんなことを友人に言われ続ける。もう、やめてくれ! と叫びたいが、言葉が声にならない。

 アラサーの女性が私に言いました。

 「リーマンショックに遭った子が、今年、29歳くらいでしょ。東北大震災のときの子が27歳かな。就職氷河期だった私たちは、『どこでも潜り込め』と言われるばかりで、オロオロしっぱなし。バブル世代の親たちは、あまりに就職感が違いすぎて、逆に傷つけられることも多かった。だから、就職のリアルなときに『何者』を読まなくてよかったです。きつすぎますよ。でも、今なら読めます。『あぁ、私も同じようなことを考えていたなぁ』と振り返ることができます。結構、感慨深いものですよ。30代になったばかりの今だから、就活の頃を思い出して、自分の職業観がどう固まってきたかを考えるって大事じゃないのかぁ」

 そういえば、私の元にやってくる現役学生たちがよく「企業で一番参考になる話をしてくれるのは30代前後の人」と言っています。「これはおかしい」と思って就活氷河期を走り回った経験が、学生たちには地に足のついた言葉として響くようです。それはきっと『何者』にあるように「ダサくてかっこ悪い今の自分の姿で、これでもかってくらいに悪あがきをするしかない」ことを知っているからかもしれません。

 30代のあなたに、今こそ就活を振り返ることをお勧めします。同時に『何者』を読まれることを勧めます。また、この小説の主要な登場人物の『何者』以前と以後を描いたアナザーストーリー『何様』も出版されました。主人公の光太郎が出版社に就職をこだわった理由などが解き明かされていく内容に、あなた自身の就活「以前」と「以後」を重ね合わせてみるのも面白いのではないでしょうか。

 さて、お楽しみいただいた「魔法の本棚」は、今回で終了になります。

 単なる内容の紹介に終わらず、私見を入れて皆さんのお役にすぐ立つようにと考え、書き進んだこの期間、私自身も十分楽しみ、勉強になりました。

 またいつかどこかでお会いできる日まで、面白い本を探しておきますね。ありがとうございました。

文/ひきたよしあき 写真/PIXTA