近年の太宰人気はSNS文体にあり?

 この人気の秘密はどこにあるのか。

 私は冒頭に書いた太宰治の書き方にあると思っています。口述筆記、つまり「おしゃべり」なのです。

 今で言えば、LINEを始めとするSNS文体。誰もが格調高い文学を書いていた時代に、太宰治はひたすら「語り」を意識した文章を書いていました。

 今回あげた「走れメロス」は、太宰自身が原稿に書いてますが、読めばまるで横で太宰自身に語りかけられてくるような文章。私のために、特別に書いてくれたラブレター、応援メッセージのように感じられるから不思議です。

 SNSが文章の標準になるつつある今、少し長めの文章を、どんなリズムで、句読点の呼吸で書けば、みんなが読み進んでくれるか。どこでユーモアを入れ、どう弱音を吐けばいいか。「ダメでもいいじゃないか、それが人間じゃないか」みたいな弱くなった心をどんな言葉で励ませばいいのか。

 まるで、SNSが駆け巡るこの時代を予測していたかのような文章をすべての小説の中で展開しています。

「走れメロス」(太宰治 文鳥文庫)
「走れメロス」(太宰治 文鳥文庫)

 私より25歳も若い仲間の牧野圭太君は、久々に読んだ「走れメロス」に感銘し、なんと出版社を作ってしまいました。

 「走れメロス」を一枚の紙に刷り込んだ「文鳥文庫」。

 私も「走れメロス」の刷られた紙を手帳に挟んで時おり読んでます。一度、太宰治の文体が頭に入ると、文章のリズムがガラリと変わる。

 簡単に乗り移ってくるのが太宰治の特長です。

 ちゃんとした長い文章を書くことができないあなた。

 是非一枚の太宰治を手帳にはさむことをお勧めします。時おり眺めるだけで、あなたの文章も、走り出します。

文/ひきたよしあき

▼関連サイト
文鳥文庫:http://bunchosha.com/posts/99

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