上司の反応は…「うわ!」
「うわ、この原稿はやばいね! いいよ。面白いよ」
私の原稿を読んだ上司は、そう言って満面の笑みを浮かべている。
あ、そんなふうに笑うんだ。
「チーフは、こういったミュージカルについて、少しは知ってるんですか?」
「いや、ぜんぜん」
「え、そんな人が読んでも面白いですか、この記事」
「そりゃ面白いよ。本物のファンにしか書けないフレーズが満載だし。例えば、ニコニコ動画のことを『こつ』って呼ぶなんて、普通の人は知らないはず」
こうして私の書いたマニアックな記事は、会社のサイトにのってしまった。
『【完全まとめ】ミュージカル新キャスト発表にツイッター阿鼻叫喚』
という記事がそれだ。
2.5次元ミュージカルは、人気作品になるとシリーズ化され、コアなファンが多くつく。新シリーズのキャストが発表されると、ツイッターでは興奮したファンの感想が大量に書き込まれるのが恒例になっている。
そうしたファンのツイートの中から、私が面白いと思ったものをピックアップして記事にしたのだ。
自分のお気に入りのキャラがなぜこの人なのか納得できない! と感情的になっている人もいれば、冷静に深く分析している人もいる。
記事の最後では、人気ミュージカルの総合プロデューサーの言葉を紹介した。
「顔が似ているかどうかということよりも、そのキャラクターの“本質”を持っているかどうかが重要なんです」
私はこの言葉が好きだ。そのキャラの本質は何か、ということを考えさせられるからだ。
だが、うちは普通のIT企業。本当にこんな文章をのせてもよかったのだろうか?
「これ、チーフは、部長たちの許可をとって掲載したんですか?」
「いや、してないよ」