今のままでもいいじゃない

吉永:過剰に頑張って異常な成功をしている人がなぜ頑張っているかを聞いてみると、どこかに「不幸」があってそれが原動力となっていることがすごく多い。例えば、家がすごく貧して人生的に成功しないと食べていけないとか、小さい頃いじめられていて、いじめていた人たちを見返すために頑張るとか。成功者に話を聞くと偏見ではなくほとんどがそういうケースだったんです。
 でも、言い方が変ですけど「手近な不幸」って、そんなにみんな平等に与えられていない。親が普通に会社員で、過不足のない中流家庭で育ってきて、明日食べるものがないというような危機も経験していない人は、無理に頑張っても幸せじゃない可能性がある。今までの普通に暮らしていた方が幸せだったなぁ、ということになる。物を作ったり、すごくいい記事を書いたり、本を出したりという作業は、どこかしら苦しい。だから、苦しまないで現状維持でいい人というのは、多いと思うんです。
 この連載の内容の根本を揺るがすかもしれないけど、働き方を迷っている人の中には、もしかしたら、そのままで、普通でいいかのかもしれない可能性があると思います。

――他の部下の方で、柚月さんのようにステップアップする方向ではない働き方をされている人はいるんですか?

吉永:柚月さんだけじゃなくて、その他の人も同じように自分が本当に好きなことがあれば書いていこうと声をかけていた時に、サッカーが大好きな部下がいたんです。毎週末サッカー観戦に行っているような女性でした。だから、「サッカーの記事を書いたら直接選手にインタビューできるんじゃない?」と言ったら、「そんなことはしたくない」と。彼女はサッカーの応援をしに行くのが好きなので、1対1で会いたいとか、選手と仲良くなりたいとは思わないと言う。逆に、土日に仕事が中途半端に入ってくると、人生が濁るので嫌だと言うんです。彼女にとっては、それが幸せな人生なんですね。
 スタジアムにいる何万人の中に立って応援旗を振っているのがその人の幸せなんです。サッカー選手と友達で、LINEを知っているという方が幸せなんてことは全くなくて、彼女の価値観に合った仕事のやり方が、幸せな人生をつくる。だからすぐ、彼女には一切記事を書かなくていいですと言いました。やや事務的な仕事かもしれないけれど、彼女は着々と仕事を進めてくれる能力がある人なので、それをきっちりこなして平日に仕事が完結する。それが彼女の幸せなんじゃないかと。

柚月:好きだったことが仕事になると、怖い部分もあるんです。ウェブの記事を書くと、炎上したりする。「自分の仕事がネット炎上&クレーム どう対応すべき?」のような感じです。自分で責任を取らなきゃいけないので、私も最初はやはり怖かったです。ウェブにアップされた自分の記事を見られない時期もありました。反応が怖い、SNSが怖い。