自分が働きかければ、社会は動く

柚月:その時のことは、振り返るとまさに「アラサー契約社員 夢が叶った!なのにモヤモヤ…なぜ?」のヤグチですね。

吉永:でも、これがいい経験になって、柚月さんは仕事の力が大きく付いてきました。「どうやってこの仕事取ってきたんだろう?」と思うような仕事をするようになって。

柚月:映画の宣伝をしてくださいと声をかけていただけるようになったんです。ライブレポートやツアーが始まる前に記事を載せてくださいと言っていただけたり。

吉永:はたから見ていても「自分の人生的にこうなるといいな」というところに近づいているのかなと。柚月さんは、40代のおじさんでも泣けるアイドルのコンサートDVDの記事を書いたことがあって。この記事がmixiで、すごく話題になったんです。そうしたら、アマゾンでそのDVDの売り上げがものすごく上がって品切れになったりした。

小説のなかのおふたり
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吉永:つまり、柚月さんは自分の心から好きな仕事で、記事を書いたら実社会に影響を与え得るということを実感したんです。それは、肩こりのコラムではなかったことでしょう。誰かのファンで、応援したいと思っている人が記事を書いたら本当に彼らのDVDが売れるって、すごいことですよね。実社会と仕事が初めてつながった。自分が働きかけることで、社会は動かし得る、自分が関与し得るという体験になったと思うんです。

柚月:最初にすごく読まれた記事は、「アイドルのファンの呼び方」をまとめた記事でした。ファンの間では共通言語なんですが、一般的には知られていないみたいで。ファンの間でつくられた呼び方が面白かったようです。

吉永:僕なんか、そもそもアイドルファンに名前が付いているという意味がよく分からなくて(笑)。その記事は、いまだに日に何千人と検索してサイトに入ってきて、累計は何十万人というものすごい数になる。普通に仕事として書いた記事がそうして社会に見られるようになる――本当に好きなことについて書いて、内容が深いから人が付いてくるんです。柚月さんは、好きなアーティストについて書く仕事を通して、そうした実感を持てたと思うんです。