今月のお題は「乳酸キャベツ」。担当のN山記者からメールが来たときには「はいはい、キャベツね」とナマ返事をしていたのだが、記事をよく読んだら、これってキャベツを”乳酸発酵”させる、ザワークラウトに近いものを作れってことじゃないか? 長いつき合いなのに、いったい何を学んできたのだ、N山嬢よ? 発酵といえば、人類の英知、食の遺産。けれど、腐敗と発酵は裏表。そんなデリケートなことが私にできるとでも? それはお猿に「千切りキャベツを作ってみろ」というに等しい。無理なもんは無理。救急車を呼ばない程度の「お腹P」で勘弁してもらいたい。

 まずは主役のキャベツをゲットだ。「無理ぃ」という私の涙目が白金から見えたかのように、O屋デスクが「春キャベツだと水分が多くて発酵しやすいですよ」と助け船を出してくれた。だが、ここは西の果ての田舎シティなのだ。野菜売り場で「キャベツ」といったら、冬も春も、もちろん紫なんて選択肢もなく1種類なのだよ(涙)。「分量はキャベツ1個分で書いてあるけど、うち2人家庭だから半分でいいか」と、2分の1にカットしたものを買った。

 ところで、私は千切りキャベツが大嫌いだ。切って作るのもイヤだが、食べるのはもっとイヤ。とんかつ屋さんでもソースと別にドレッシングがないと食べない。なんか口の中でモサモサする感じが嫌いなのだ。だが、そんな千切りキャベツ属の中にも「お気に入り」はいる。ザワークラウトだ。酸っぱいだけのも、ちょっと甘いのもイイね。某「なんでも大容量」スーパーの大瓶でも、あっという間に食べてしまう。あれが自分で作れるようになったら、ちょっといいかも?

基本の乳酸キャベツ

 まずはイヤイヤながらキャベツを千切りにする。切ったキャベツの半分を大きなサイズの保存袋に入れ、用意した分量の半量の塩を入れ、袋ごとモミモミする。塩がなじんでしんなりしてきたら、残りの塩と好みのスパイス、きび砂糖を入れて、さらにモミモミ。

 このとき重要なのが、手術に臨む外科医のように完全無欠な「清潔さ」だ。これを疎かにすると、せっかくの発酵を雑菌が邪魔をする。乳酸菌(キャベツの表面にいるらしい)にノビノビと増えてもらうためにも「清潔第一」なのである。

 実は、この段階で「えぇ?」っていう状態に陥った。買ってきたキャベツ2分の1個をモミモミしたら、びっくりするくらい少量なのだ。大きめのお茶碗なら「入っちゃいますよね?」という感じ。しかたがないので、キャベツをもう2分の1個買い足して、イヤイヤ千切り→モミモミを繰り返す。塩は1㎏のキャベツに対して小さじ4弱。きび砂糖が小さじ2分の1。スパイスはタカノツメと粒コショウ、ローリエにしてみた。この保存袋に入った状態にペットボトル3本分の重しをのせて、直射日光のあたらない場所に置いておく。袋だけよりも、お菓子の空き箱などにキュキュッと詰まった感じで重しをすると好感触だ。

 このまま常温で放置。うまくいけば1~5日でプクプクと細かい泡が浮いてくる。味見をして酸味が出ていれば大成功だ。今回はちょうど気温の高いカンカン照りが続いたので3日で袋を開けてみた。「あら、これダメかしらね? クンクン」な感じではなく、ちゃんと「漬物」の匂いがするゾ! で、ちゃんと酸味、そしてビックリするほど旨みが強い。「これ、本当に私の天敵千切りキャベツ?」という出来栄えだ。ダーヴィンさん、これも『進化論』に入れてください。「お猿がキャベツを乳酸発酵させましたよ~~!」と、叫びたい瞬間だった。