EU離脱とイギリスのこれからを握る女性たち

イギリスのこれからはどうなる……? (C)PIXTA
イギリスのこれからはどうなる……? (C)PIXTA

 ドイツにおいても、メイ首相は粘り強い交渉者として知られ、これから直接の交渉相手になるメルケル首相とも比較されてきました。

 メイ首相の父親は英国国教会の教区司祭。一方でメルケル氏の父親はルター派教会の牧師。つまり、二人ともプロテスタント系牧師の娘といったことも比較の対象となっています。

 ドイツの前内相で、在任中にメイ氏と何度も会合で顔を合わせたハンス=ペーター・フリードリヒ氏はメルケルとメイの共通点として、「二人とも虚栄心がありません。考えの中心にあるのは自己ではなく、争点そのものです」としています。自分の利益ばかり考えている日本の政治家も多く見られる中、彼女たちはもっと公のこと、大きなことを考えの中心に据えているのです。

 二人の女性リーダーに共通なのは生い立ちだけでなく、その一貫した姿勢にもあるわけです。先に立つ人は男も女も関係ありません。あるとしたら、誰かがこうした評価に後付けで「女性だから」あるいは「女性なのに」という言葉をくっつけているだけのように見えます。必要なのは性別ではなく、ついていきたくなるようなブレない姿勢で信念を貫くこと。それが欠如したとき集団は道に迷い、新しいリーダーを探すことになってしまいます。

 メルケル首相は記者会見で「イギリスがEUとの将来の関係をどう形成していくのか、早急に明確にする必要があります。欧州単一市場への自由なアクセスを望む国は、その見返りとして、人々の自由な移動を含む基本的な自由をすべて受け入れねばならない」と、難民や移民問題や経済問題について語っています。

ちょっとおさらい 「EU離脱のメリット・デメリット」とは?
EU加盟国には難民受け入れを拒否できない法律があり、移民も特別な理由がない限り受け入れなければならない。これにより、国民の税負担が重くなったり、安価な労働力に仕事をとられたりするといった心配が生じてしまう。イギリスがEUを離脱すれば、自国で規制できるものの、今度はEUという大きな後ろ盾を失くし、イギリスの国力の信用が低下する。これによりポンドが安くなることが予想され、購買力・競争力が低下する可能性が生じるなど、さまざまな課題をはらむことになる。

ブレずに突き進むメイ新首相の行く先は?

 大臣時代から人に愛される側面がありつつ、「冷たい」女性指導者とも言われるメイ新首相。事態が変われば考えも柔軟に変えながら、正しいと確信した後はブレずに突き進む人。EUとイギリスの関係が将来的にどうなろうとも、労働者の移動の自由や難民問題という「越えられない一線」をどう解決していくか。イギリスのEU離脱の意思の正式表明や、交渉開始時期の決定は、すべてメイ新政権次第です。

 イギリスのEU離脱のカギを握る二人の指導者の動きに注目しながら、会談の実現と楽しみに待つこととしましょう。

文/上野陽子 写真/PIXTA

【参考資料】
USA TODAY, Theresa May faces Margaret Thatcher's challenges without the charisma: Column
The Wall Street Journal, Jason Douglas and Alexis Flynn, 2016年7月12 日
BBC News Japan, 次期英首相のテリーザ・メイ氏 どんな人物か 2016年07月12日
MAIL ONLINE 'Iron Lady Reincarnated': Putin's Russia greets new Prime Minister Theresa May... and calls her Margaret Thatcher Mark II
INDEPENDENT, As a British Muslim, I'm terrified that Theresa May
THE HUFFINGTON POST, イギリスのメイ新首相はおしゃれ番長、大の靴好き

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