サイモン・カーティス
1960年3月11日、イギリス生まれ。ロンドンとニューヨークで舞台演出家として活躍し、「リトル・ヴォイス」として映画化された舞台「リトル・ヴォイスの栄光と挫折」などを演出。その後、マギー・スミス、イアン・マッケラン・ダニエル・ラドクリフが出演したBBCのTV映画「デビッド・コパーフィールド」や、ジュディ・デンチ、マイケル・ガンボンなどが出演し、エミー賞と英国アカデミー賞を受賞したTVシリーズ「クランフォード」などを監督。2011年の「マリリン 7日間の恋」で劇場長編映画監督デビュー。本作においてアカデミー賞で2部門、ゴールデン・グローブ賞で3部門、英国アカデミー賞で6部門にノミネートされ、主演のミシェル・ウィリアムズはゴールデン・グローブ賞とインディペンデント・スピリット賞を含む12の映画賞で主演女優賞を受賞した。

――BBCのドキュメンタリー番組でマリア・アルトマンについて知り、心を動かされたそうですね。

 「そうなんだ。番組を見た時に、これは映画になる話だと思ったんだよ。ドキュメンタリーではとらえられていない、閉じたドアの向こう側に、映画なら観客を連れていくことができると思った」

――マリアのどんなところに心を動かされたのですか?

 「彼女の強さや、勇気があるところに強く引かれたね。マリアは、20世紀初頭の素晴らしい時代のウィーンと、ひどくなっていった第二次世界大戦の頃、そして20世紀末の現代的なアメリカを結びつける存在だと思ったんだ」

――「マリリン 7日間の恋」もそうですが、監督は実在の人物の物語に心を引かれることが多いのでしょうか?

 「そうだね、実在の人物の話にはやっぱり興味を引かれるね。最近、成功している映画に『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』『博士と彼女のセオリー』『英国王のスピーチ』『ソーシャル・ネットワーク』などがあるが、どれも実話を基に作られているものばかりだ。僕は実在の人物についてリサーチするのが大好きなんだよ。ただ、こういう映画を作るのは大変なこともある。もしも話を勝手に作り上げてしまったら、観客はそれを本当だと思ってしまうからね。細心の注意が必要だ」

――「黄金のアデーレ 名画の帰還」は、実話を基にしていますが、法廷ドラマであったり、アメリカへの亡命を描いたスリリングな逃亡劇であったり、人間ドラマであったり、笑える部分もあったりと、たくさんの要素が含まれているのも魅力的ですね。

 「マリアとランディを演じているヘレンとライアンの相性が良く、初日からとてもうまくいったんだ。だから、あの2人のパートにはユーモアがあふれていて、温かい人間味もあってすごく良かった。2人のおかげで、コメディーの要素も生まれたね。ほかにはラブストーリーの要素もあるし、実話を基にしているが、エンターテインメント作品としても楽しんでもらえると思う」

――さまざまな要素を盛り込んだのには、どのようなお考えがあったのでしょうか?

 「最近の映画は、本当に何も語っていないものが多いと思うんだ。僕らは21世紀に生きているわけだが、前世紀に起こったひどいこと、それはナチスに限らず、人種や性別、宗教、年齢など、どんなことでも差別に関することを忘れないことが大切だと思う。差別することは非常に危険だと言いたかった。それをエンターテインメントの要素を入れながら、語っていくことができればと考えたんだ」

――本当に楽しみながら、たくさんのことを学べる映画だと思います。本作で、ヘレン・ミレンさんは言うまでもなく素晴らしい演技を披露されていますが、ランディ役のライアン・レイノルズさんも、これまで見たどの作品よりも素晴らしかったです!

 「マリア役にヘレンをキャスティングすることは、天才じゃなくてもできると思うが(笑)、ランディ役にライアンをキャスティングできたのは非常にラッキーだったよ。ランディは、自分のルーツを発見していく旅に出るアメリカ人を代表するようなキャラクターにしたかった。ライアンには優しさやかわいらしさがあるし、知的な面も感じられる。そこがランディと共通していたんだ」

――ヘレンさんとは、長いお付き合いだそうですね?

 「そうなんだ。僕は10代の頃、彼女の出演する舞台でお茶出し係として働いたことがあって、その時からの付き合いだ。今回、一緒に仕事ができて、すごくエキサイティングだったよ! ヘレンはマリアを、ユーモラスでファニー、なおかつ怒りを抱いているキャラクターだと感じていて、彼女が本能的に演じたいと思うやり方を取り入れながら撮影したんだ。それは、本当に素晴らしかった」

マリアを熱演したヘレン・ミレン。
マリアを熱演したヘレン・ミレン。

――素敵なお話をありがとうございます! それでは最後に、読者にメッセージをお願いします。

 「さっき話したことに関連するが、過去に起きたことを忘れてはいけない。マリアという女性の人生を通して、ずっと覚えておかなければいけないことを、この映画から感じてもらえたらうれしいです」

インタビュー写真/小野さやか