紀里谷和明
1968年、熊本県生まれ。15歳の時に単身渡米し、マサチューセッツ州にある全米有数のアートスクールでデザイン・音楽・絵画・写真などを学び、パーソンズ美術大学では建築を学ぶ。1990年代半ば、ニューヨーク在住時に写真家として活動を開始。その後、数多くのミュージック・ビデオを制作。CM・広告・雑誌のアートディレクションも手掛ける。2004年、SFアクション「CASSHERN」で映画監督デビュー。2008年、アドベンチャー活劇「GOEMON」を発表。2015年、監督第3作「ラスト・ナイツ」でハリウッド・デビューを果たした。

――「ラスト・ナイツ」を拝見し、まず豪華キャストに心を奪われました。彼らをまとめ、映画を作り上げた紀里谷監督に、日本人として誇らしい思いでいっぱいです。

 「ありがとうございます」

――本作は、脚本に引かれて映画化を決意されたそうですが、撮影準備や撮影中の苦労など、完成までの経緯を教えていただけますしょうか?

 「本当に苦労の連続で、こんなに続くのかってくらい難題に次ぐ難題がありました。それを1つ1つクリアしていって、ここまで来たという感じです。脚本を読んで、映画化すると決めて、お金を集めるという部分では、僕だけじゃなく何人ものプロデューサーが絡んできます。アメリカ・韓国・日本と国をまたいで、お金を集める作業は非常に大変でした。それをやりながら、キャスティングをして、ロケハンして、準備して撮影に臨むんですが、撮影に入ったら入ったで、いろいろな問題が持ち上がる。全てのことをまとめるというプレッシャーも大きかったですね。ロケ地だったチェコではマイナス20度とか30度とか、機材が凍ってしまうような状況で、雪のなか毎日12時間の撮影を行いました。撮り終えたら、今度はポスプロという編集などの作業が始まって、それには1年以上費やしました。映画の完成後、つまり現在は自社で配給業務をしています。11月14日の公開日に、やっとゴールですね」

――(大変な様子に思わずため息)お疲れ様でした。完成した映画を観て、満足度はどのくらいですか?

 「100%の満足じゃないけど、できることは全部やったと思います。でもこりごりですね」

――えっ、こりごり?

 「映画監督として、もっとできると思っていますが、こりごりはこりごりですよ」

――(絶句)

 「どうされました?」

――え、えーと、大勢の映画監督にインタビューしてきましたが、映画を撮ってこりごりとおっしゃったのは、紀里谷監督が初めてなので……。

 「極寒の中の撮影が、ですよ。『CASSHERN』の時も思いましたし、どんな仕事でもそうですが、大変じゃないですか。大変でも、黙ってやるしかないわけですし」

――分かりました。モーガン・フリーマンさんやクライヴ・オーウェンさん、アン・ソンギさんといったキャストに関する印象的なエピソードを教えてください。

 「これまでも、日本の一流の人たちと仕事をさせていただいてきましたが、自分でも不思議なくらいすごい人たちが出演してくださり、ものすごくサポートしてくださいました。ハリウッド作品としてやるのは初めてでしたし、スケールが大きいのでアップアップな状態になっている僕に、アン・ソンギさんがニコッて笑ってくれたり、何でもやりますから大丈夫だと言ってくださったり、とてもありがたかったです」

――実は、何の予備知識もない状態で、マスコミ試写の初回に伺って、忠臣蔵をベースにした物語だと知らないで観たので、途中からじわじわと主人公の考えが分かってきて興奮しました。これから「ラスト・ナイツ」を観る人は、どの程度の予備知識があると良いでしょうか?

 「予備知識はなくていいです。忠臣蔵と言わなくてもいいです。忠臣蔵が好きな女性なんていないですよね?」

――えー、いると思いますよ。

 「ただ、すでに観た女性たちには、とても評判がいいんですよ。なぜかと言うと、この映画に出てくるような男たちが今の世の中にいないからって、みなさんおっしゃるんです。イケメンとかじゃなくて、本質的に男であるということ。女性たちはその部分に引かれるようなんです。それは僕の意図したことではなかったですが、うれしいですね」

男らしい男が登場する「ラスト・ナイツ」。
男らしい男が登場する「ラスト・ナイツ」。

――そうですね、すごくカッコいい男性たちだと思いました。ところで、紀里谷監督は、これまでいろいろなことに挑戦してこられたと思いますが、今現在の肩書は「映画監督」のみですか?

 「肩書なんて、なんでもいいと思っています」

――映画監督になったきっかけは?

 「映画が好きでしたし、ただ映画を作りたい、それだけですね」

――では、監督として現場をまとめるために心掛けていることを教えてください。

 「やっぱり、どこに向かっているのかは明確にしないといけませんから、どういう作品なのか、何をしようとしているのか、はっきり伝えることが重要だと思っています。監督は迷ってはいけないし、聞かれたことに即座に答えなきゃいけない。そういう風に心掛けています。監督が迷ったら、みんな迷っちゃいますからね」

――監督はスタッフと同じ立場で、現場の一員だと思っていますか?

 「それ以外に何がありますか! 本来、映画って監督がいなくてもできるはずなんですよ。ただ、どっちにするべきかとか、もめた時なんかに、裁判官のような存在として、この人に従うというルールがあるだけの話ですね」

――監督って謙虚なんですね。権力をふるいたい監督もいるのかと思っていまして。失礼しました。

 「ところで、映画の話はこれくらいにして、もっと読者のみなさんに興味を持っていただけそうなお話にしてみませんか?(笑)」

――では、自分のスタイルを貫く秘訣を教えてください。

 「まず、スタイルと言ってること自体、自分を過大評価しすぎてるんじゃないかと思います。“私らしさ”とかに強迫観念を抱いている人が多いですよね。自分らしさなんて分かっている人いるんでしょうかね?」

――(ストレートすぎる答えに動揺しつつ)じゃあ、アドバイスはなしということで(ペンを置く)。

 「単純にやりたいことをやればいいんじゃないかと思います。好きな男性がいるんなら、告白すればいいし。人から嫌われるとか思わずに。自分が思っているほど周りはそんなに見てないものですからね。没頭できるものがあれば、それでよし! まだ時間ありますし、ペンを置かず、もっと質問してください(笑)」

――努力しているのに周囲に認めてもらえない時、気持ちを前向きにするにはどうすればいいでしょうか?

 「認めてもらえないって、その信憑性はどこにあるのかなと思います。僕の映画も、認めないという人もいれば、面白いと言ってくださる人もいる。認めてもらうことにこしたことはないですが、認めてもらえなかったとしても、あなたの価値は変わらない!」

――では、今よりもステップアップしたいと思っている女性に、何かアドバイスは?

 「そもそもステップアップって何ですか!? そんなことに縛られるなと言いたいです!(笑)」

――……分かりました。そろそろお時間のようなので、写真撮影をお願いします。

 「えー、もっと読者のみなさんが知りたそうなこと、聞いてくださいよ~」

――もう大丈夫です。バッサリ斬ってくださり、ありがとうございました(笑)。

 「そうですか? とにかく悩むよりも努力! それが一番ですよ!」

インタビュー写真/小野さやか