――良多は母の留守中に実家で、父が残した値打ちのあるものを探し、それを売ろうと考えますよね。これも監督の経験からでしょうか?

是枝「良多みたいに探したりはしなかったけど、父が亡くなってからしばらくして実家に帰った時に、父の物が何一つ残っていなくて、母に聞いたら『お葬式の翌日に全部捨てた』って。ビックリしたけれど、それが母の人生の区切りのつけ方なんだと思いました。経験をぜんぶそのまま書いたわけじゃないけど、そういったことを基にはしていますね」

――樹木さんが演じた淑子さんからも、監督ならではのユーモアを随所に感じられました。

樹木「もちろん、それはもう台本が素晴らしいから!」

是枝「そんなことは……(照れ笑い)」

――その台本を汲み取る樹木さんから面白さがにじみ出ていました!

樹木「監督の力なのよ。映画はね、なんといっても監督のものなの」

――樹木さんは淑子さんをどんな人物としてとらえて演じたのでしょうか?

樹木「あんまり『こういう人物』と思わず、私の体を通して台本にあるものをそのまま出したの。私はいつもそうしているのよ」

是枝「希林さんは、淑子が台所で何十年もやってきている料理とか掃除といったことを、本当にやってきたように自然に演じられる。そういう風にお芝居ができる方なんです。淑子が何を楽しみに暮らしているかということも、希林さんが演じると具体的に見えてくる」

樹木「私は、ただいればいいだけ。是枝監督は、どんな芝居を撮りたいかということを分かっている。若いのに、こんな人滅多にいないわよ。役者としては冥利に尽きるわね。一番難しい“日常”というものを描ける監督。私はもう大体日常を演じ切ったから、『海よりもまだ深く』で最後にしてもらいます、ってところかな(笑)」

――えーっ、もっともっと是枝監督の作品で樹木さんを観たいです!

是枝「さっき阿部さんとも話したけど、またぜひ出てほしいです。悪い役でも(笑)」

樹木「じゃあそうね、事件を起こして、テレビの画面にちょっと映るっていう(笑)」

――ちょっとじゃなく、たくさん出演してください(笑)。残念ながら、そろそろお時間のようなので、最後に質問というか樹木さんにお願いです。これまでの作品でも、今回の「海よりもまだ深く」でも、監督が書かれた言葉が樹木さんによって名ゼリフになって、心に響くことが非常に多いです。そこで働く女性に向けて、壁にぶつかった時に思い出したい励ましの言葉をいただけないでしょうか。

樹木「そうね、どう頑張っても人間いつかは死ぬ日が来るんだから、気楽にやったらいいのよ。誰かの生き馬の目を抜くんじゃなくて、手を抜いたらどう? って、こんな感じでいいかしらね」

――ありがとうございます! 気楽にやっていきます。

是枝「希林さんだからこそ響く言葉って多いからね」

樹木「そんなことないわよ~。インタビュー、ありがとうございました」

文/清水久美子 写真/鈴木智哉

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