――「海よりもまだ深く」、本当に素晴らしかったです!
樹木「どういう風に素晴らしかったの?」
――主演の阿部さんはもちろん、真木さんも小林さんも、みなさん素晴らしかったですが、最も素晴らしかったのは樹木さんです!
樹木「阿部さんや真木さんがここにいても、そう言うの? 言わないでしょ~(笑)」
――言いますよ~。樹木さんに心を奪われまくりだったんです!
樹木「私、ついいつもこういうことを言っちゃうから(笑)。ごめんなさいね、ありがとうございます。それはね、監督の手腕によるものなのよ。母親の持つ普遍性を描こうとしているの」
――自分の母の話を映画で観ているようでした。私のように、観客が共感する話になっているのは監督の狙い通りですか?
是枝「この映画では、僕の記憶も含めて、個別のことをどのくらい具体的にできるかということをやったので、みんなが共感できるように作ったわけではないんです。『この母親と息子だったらこうするだろう』と、役者さんを念頭に置きながらキャラクターを作り、そのキャラクターを動かしながら映画を作っていきました。でも、共感しながら観ていただけるというのは、自分に置き換えながら、自分が実家に帰った時に経験したことを考えられるような普遍性を持てたのかな。結果的にですけど」
――阿部さんが演じている息子の良多は“ダメ中年”というキャラクターですが、彼は共感できる人物として描かれているのでしょうか?
樹木「細部までこだわって描かれているから、彼の特徴が伝わってくるわよね。身近にいる人物のようで、普遍性があるキャラクターじゃないかな」
是枝「最初に脚本に書いたのは、良多が仏壇にお線香をあげようとするんだけど、香炉にささらなくて、中を見たら燃えカスが溜まっていたんで、古新聞を床に広げて、夜中にカップ麺を食べるのに使った割り箸と楊枝で香炉を掃除するという場面。自分でもやったことなんだけど、父親の葬式で骨を拾ったのと、この香炉の掃除がちょっと自分の中で重なったんですよね。そこから少しずつ肉付けをしていって、良多というキャラクターをふくらませていきました」
樹木「この細部へのこだわりの話で、是枝監督の映画作りが大体分かりましたでしょ。どこのうちでも、仏壇の香炉の燃えカスって、マッチが残っていたり、灰が湿気っていたりするのよね。こういうところも共感できるわね」
是枝「スタッフにも、『うちの香炉も見てみたらすごかった。あんなに燃えカスが溜まっているものなんだ』と言われて、これはいけるかもって思いました(笑)」