TAO
1985年5月22日千葉県生まれ。14歳でモデルデビュー。2006年、秋冬 パリ・プレタポルテより海外コレクションに参加。その後、パリに拠点を移し、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンなどでも活動。2009年より拠点をニューヨークに移し、数々の雑誌、ランウェイ、 ワールドキャンペーン等を経て、世界のトップモデルとして活躍。2009年、『VOGUE NIPPON(現JAPAN)』11月号で表紙を飾り、TAOをフューチャーした特別記念号が出版。2013年10月号でも表紙を飾る。2013年、映画「ウルヴァリン:SAMURAI」で女優デビュー。出演作に映画「クロスロード」、TVドラマ「血の轍」「ハンニバル」「The Man in the High Castle」がある。

――2013年に、TAOさんが女優デビューされた「ウルヴァリン:SAMURAI」の時にもインタビューさせていただきました。再び、ハリウッド超大作にご出演されて素晴らしいです! 今回、出演されることになった経緯を教えていただけますか?

 「『ウルヴァリン:SAMURAI』での私は、まだまだ初心者の演技をしていたと思うのですが、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のザック・スナイダー監督が、奥様でありプロデューサーでもあるデビーさんと一緒に、映画館で『ウルヴァリン~』をご覧になって、私を使いたいとおっしゃってくださったそうなんです。つたない演技ではあったけれど、評価していただけて、そこからつながりが生まれたのが、すごくうれしかったです。それで、ロスにザックに会いに行って、ミーティングをした数日後に連絡があり、出演が決まりました」

――監督はTAOさんに一目ぼれだったのですね! スナイダー監督の映像世界は独特ですが、撮影はいかがでしたか?

 「ザックは、スタッフに何かを説明する時は、体を動かして、大声を出されたりしていたのですが、役者に『こうした方がいい』という指示を出される時は、すごく繊細な人だという印象を受けました。『今、良かったけれど、次はこうやってみない?』という風に、とてもジェントルマンな対応でしたね。監督と役者がリスペクトし合える現場だと思いました」

――TAOさんが演じるマーシー・グレイブスについて、読者に紹介していただけますか?

 「レックス・ルーサーというキャラクターの“ロイヤルな右腕”という役柄で、原作にも登場している女性です。日本人でも、アジア人でもない設定なのに、ザックが私をキャスティングしてくださったことがうれしかったです。初めて、日本やアジアという枠を超えた役をいただけた喜びがありました」

――今回のマーシーはファッショナブルな女性で、黒縁メガネをかけていますよね。

 「キャラクターのビジュアルを作っていく時、私のモデル時代の写真に、バックステージかどこかで、ちょっとふざけて黒縁メガネをかけて、髪をベリーショートにしている写真があったのですが、それをザックが気に入ってくださって。でも、正直『えっ、メガネをかけちゃうと顔が半分隠れちゃう』と思ったんですが、それも新しいかなと思いました。ヘアースタイルは、ショートはちょっと嫌だったので、私なりに『意地悪そうな前下がりのボブ』を提案して、髪を切ったんです(笑)」

――ウィッグなのかと思っていました! TAOさんの意見が、キャラクターのビジュアルに取り入れられているのですね。

 「そうなんです。スタッフの方にブランドや売っているお店を提案したら、ちゃんとリサーチしてくださいました。一緒に作品を作り上げている感覚を持てました」

クールビューティーなマーシーに扮するTAOさん
クールビューティーなマーシーに扮するTAOさん

――レックス役のジェシー・アイゼンバーグさんは、とても個性的な俳優ですよね。共演してみて、いかがでしたか?

 「とっても変わった人でした(笑)。毎回毎回アドリブを入れてくるんですよ~。彼のセリフの最後を合図にして、私がセリフを言わなければいけないのに、リハーサルをしてきたはずが、毎回変わっちゃうから、タイミングが分からなくなったりしました。一オーディエンスとして観たら、本当に面白いんですけどね。本能でレックスになり切って演じているんです。すごい俳優さんなので、共演できたのは貴重な体験でした」

――女優デビューされてから3年が経ち、ハリウッドの作品と日本の作品の両方に出演されてきましたが、役者として演技への考え方に変化が生じたりしましたか?

 「そうですね、始めたばかりの頃は、役者というものは、自分以外のさまざまな人物になれることが役者冥利に尽きるものだ、という教科書的な考えを持っていたんですね。それがこの3年の間に、アメリカの作品のオーディションを受ける中で、感情表現について思うところがあったんです。例えば、怒らなければいけないシーンでは、たぶん正解は『ギャーッと叫んで怒る』というのを求められているんだと分かるんですが、それは私からナチュラルに出る感情ではないんですよね。もっと日本人らしい怒り方があると思ったんです。そういうことで、結構ずっと悩んでいました。求められている通りにできるのは、もちろん素晴らしいことなんだけれど、私だからこういう怒り方になったとか、私にしかできないことをプレゼンして、少ない人数でも、それでいいと思ってもらえる人に出会えたらと、今は思っています。無理して自分じゃないお芝居をするのではなくて、自然で自分らしい演技の中から広がっていけたらいいかなと思います」

――モデルのTAOさんは世界的に有名ですが、アメリカの人気TVドラマ「ハンニバル」や、話題のアマゾンの配信ドラマ「高い城の男 The Man in the High Castle」に出演されて、役者としての知名度もどんどん上がっていると思います。今後も演技のお仕事に力を入れていこうと思っていらっしゃいますか?

 「モデルの仕事も楽しくて好きなのですが、モデルのキャリアの方が長いので、『モデルがたまに映画とかにちょこちょこ出ている』という印象を抱かれることが多いんじゃないかと思うんですね。なので、役者業に重きを置いているという意思表示をするため、今はモデル活動をセーブしながら、お芝居に真剣に向き合っています」

――役者のお仕事でステップアップしていらっしゃるTAOさんですが、何かモチベーションにしているものはありますか?

 「モチベーションですか!? ぜひ教えてほしいくらいです~(笑)。雑誌や広告を撮影した時は、長くても3~4カ月後には結果が上がってきますが、映画は、特に今回の『バットマン~』は、撮影してから完成までに2年くらいかかっているんですね。雑誌や広告とは比べ物にならないくらい長い期間なので、結果が次につながるといいなと思っていても、待っている時間が長すぎて、自分との向き合い方がつかみきれていないんです。次の仕事が決まらなかったり、撮影した作品のリリースが遅れたりして、落ち込むこともあります。そういうことに慣れていかなければいけないんだろうなぁと、自分なりに対応していこうと思っているところです」

――世界を股にかけて活躍しているTAOさんのお話、とても参考になります。では、今後の目標を教えていただけますか?

 「そうですね。先日のアカデミー賞で、黒人俳優が一人もノミネートされなかったことが話題となりましたが、私たち黄色人種は話題にも上りませんでしたよね。私たちは、アメリカにおける黒人の方々のように、人種問題で戦ってきた歴史もないですし、同じ土俵で何かを語るのは違うとは思うのですが、もう少し自己アピールしていくべきだと思うんです。これからは、機会があれば声を上げていければと思っています」

――ありがとうございます。応援しています! では最後に、「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」を女性が映画館に観に行きたくなるような、お薦めコメントをお願いします!

 「はい! バットマンやスーパーマンだけではなく、ワンダーウーマンも出てきますし、オスカー女優のホリー・ハンターさんも出演しています。男子の好きなスーパーヒーロー以外にも、女性がカッコいいと思う女性たちが出ている映画なので、ぜひ女性のみなさんに観ていただきたいです!」

文/清水久美子 写真/杉 映貴子

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