――「クーパー家の晩餐会」を拝見して、母親にガッカリされたくないというエレノアに共感する30代前後の女性は多いのではないかと思いました。監督は二人の関係をどう思われますか? シャーロットにもエレノアにも共感できますか?
「二人の関係には、とても共感できるわ。シャーロットはエレノアを干渉しすぎているとは思うけれど、エレノアが母親から『大丈夫かしら』と心配されるような時期にあることは間違いないと思うの。母親として心配する権利があるし、子どもを思うのは当り前よ。でも、子どもがうまくいっていない時期に、親が干渉することで、より親子関係が悪化することがあるわよね。私にも経験があるわ。子どもは、苦しみを親に見せたくないものだから、そういう時に親が何を言ってもうまくいかないのよね。エレノアは、自分が心配されるような人間だと思われたり、そういう風に扱われたり、いろいろ言われたりするのがイヤだと思っている。そして、『どうせ失敗するだろう』と親たちに思われるのもイヤだと思っている。彼女のそういう感情にも共感するわ」
――父親であるサムは、エレノアに対してどんな思いを抱いているのでしょうか? また、エレノアは父サムに対して、母シャーロットに対して思うほどは、「こう思われたい」という強い気持ちはないのでしょうか?
「サムもシャーロットと同じように、エレノアを心配しているわ。でも、彼は妻に比べれば、それほど心配性ではなく、『ちゃんと僕らは子どもたちを育てたんだから、子どもたちは自分たちで道を見つけるよ』と言っている。誰もが同じではないと思うけれど、子どもとの距離感で言うと、父親の方が健康的な距離を保っているのかもしれないわね。子どもたちは、『自分を一番心配してくれているのは母だから、母を安心させたい』と思っているのかもしれない。娘としては、父よりも母の方をガッカリさせたくない、と思う人が多いんじゃないかしら。逆に言えば、父はそこまで細かく自分のことを見ているわけではないから、母と比べたら、父といる方が居心地がいいのかも。でも、母をガッカリさせたくないという感情を持つことは、エレノアが母を大切に思っているからだし、『私は大丈夫』という姿を母に見せたいからだと思うわ。もちろんエレノアは、両親二人ともをちゃんと愛しているけどね」
――シャーロットとエマの姉妹には確執がありますが、同じような悩みを抱えている人も結構いるのではないでしょうか。監督は、姉妹がうまくやっていくために必要なことは、どんなことだと思いますか?
「姉妹や兄弟だと、どうしても自分と同じように物事をとらえてほしいとか、同じ行動をとってほしいとか思うものかもしれないけれど、一人一人が違う人間なんだと受け入れることが大事なのではないかしら。同じ考えだと思い込むのではなく、人間として違うところを大事にするのがいいと思うわ」
――バッキーとルビーの関係にも興味を引かれました。高齢の男性と若い女性が親しくなるという設定ですが、二人の間には友情を超える何かがあるのでしょうか? 年の差は大きいですが、愛情のようなものがあるのでしょうか?
「二人の年齢があんなに違わなければ、恋愛関係だったかもしれないわね。恋愛未満みたいな感情で、魂がピッタリと合っている。馬が合う関係ね。二人は、自分たちの居場所を見失っているところがある。お互いに親密になりたい気持ちを持っているけれど、いわゆる性的な愛情ではなく、心からの優しい愛情を持っているのよ」
――なるほど。ルビーは、現状から脱却して、新天地で出直したいと考えていますよね。彼女と同じように思っている女性も少なくないと思うのですが、監督がルビーのような女性に何かアドバイスするとしたら、なんて言ってあげますか?
「人生で非常に重要なのは、恋人や愛を見つけるために躍起になるのではなく、今、情熱を感じていることを全うすることだと思うわ。意味がある仕事をしたり、大切な友人や家族を大事にしたりすることで、美しく愛を分かち合う。そういうところから良いものが生まれるの。愛だけを探すためにもがくのではなく、情熱を感じることに関する道を歩むことで、愛が付いてくるんだと思うわ」
――ありがとうございます。それでは最後に、「クーパー家の晩餐会」を観て、読者にどんなことを感じてほしいか教えてください。日本ではクリスマスイブは、どちらかと言うと恋人同士がデートをする日だと考える人が多く、イブの食事会に半ば強制的に家族で集まる習慣にピンと来ない人も結構いると思うのですが……。
「そうね、この映画を通して、より心をオープンにしてもらえたらうれしいわ。恋人でも家族でも、つながることは大事だけど、正直に自分の心をオープンにすることは何よりも大事だから。今まで以上に自分のことを愛してくれる人を大事にして、家族や友人など周りの人たちに感謝してほしい。多忙な毎日を送っていて、普段家族と違う方向を向いて生きているかもしれないけれど、家族を愛して、単純な喜びを改めて祝福する。そんな気持ちになってもらえたらいいわね!」
文/清水久美子
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