――「ピンクとグレー」を拝見して、“ある仕掛け”にすごく驚きました。この驚きは「シックス・センス」以来です!
行定「『シックス・センス』以来なの!? ずいぶん前ですよね(笑)」
菅田「それ、大丈夫な驚きなんですかね(笑)」
――ただ、紹介するのがとても難しそうです。○○(ネタバレになるので伏せます)についても、書いちゃダメですよね?
行定「いや、書いてもいいんじゃないかな。うまくごまかせればだけど(笑)。良心に任せますよ」
菅田「そんなこと言われたら、書けなくなっちゃいますよね~」
――う~、うっかりバラしてしまうのが怖いので、やめておきます。映画の前半と後半では、菅田さんの雰囲気が全然違いますよね。って、この聞き方なら大丈夫ですよね!?
行定「わははは。そうだね、全然違うね」
菅田「前半と後半で、完全に2作品みたいな感覚で演じました」
――ストーリーの順番通りに撮ったのですか?
行定「いやもう、バラバラだったね」
菅田「2作品を行ったり来たりみたいな感じでしたよ(笑)」
――“仕掛け”も素晴らしかったですが、青春映画としてすごく引き付けられました。監督は、青春映画を撮られるのは久しぶりだと思うのですが、どんなお気持ちで撮影に臨まれたのでしょうか?
行定「『パレード』も青春映画と言えるかもしれないけど、登場人物の年齢がもう少し上だったからね。『GO』以来だと15年近く経つことになるな。あの時と比べて、当たり前だけど、僕も年を取ったと思いました。今回、撮っていてすごく楽しかった。深作欣二さんが生きている時に、『GO』をすごく面白かったと絶賛してくれて、『年取った俺が撮ると違ってしまうんだよ。もっと残酷になっちゃうね』と言われたんですよ。僕はまだ当時の深作さんよりも若いけど、『GO』の頃は主観でとらえていた青春を、今は客観視している。中島裕翔が演じた主人公をもっと滅多打ちにしたいとか、主観だったら優しくなれた気持ちが、今は違うんですよね。今回、菅田を手に入れたんで、菅田を使って主人公を引っかき回してやろうと(笑)。それはもう、すごく楽しかったです」
――引っかき回す役目を任された菅田さんは、撮影はいかがでしたか?
菅田「めちゃくちゃ楽しかったです! 幼なじみのヒロインが手を振りながら去っていくのを見送るとか、いわゆる分かりやすい“青春”を演じることも楽しかったですし、引っかき回すのも、思いついたことをいろいろやらせてもらえたので、本当に楽しかったです」
――お2人とも、楽しみながら撮影に臨まれたのですね。
行定「菅田は天才なんですよ」
菅田「(照れて)天才じゃないですよ~」
――菅田さん、監督から大絶賛ですね!
行定「天才の役者ってたくさんいるとは思うんだけど、菅田にはあえて『ちょっとここはこうした方がいいかな』と言ってみると、『そうですね』って、意外と素直な天才なんだよね(笑)。彼から生まれる衝動は、見ていてすごく面白い。放っておくと、フレームからいなくなったりするんだけど、そのままやらせておいた方が面白いんですよ。中島は、どちらかと言うとストイックで、すごく考えて撮影に臨むんですね。そんな時、菅田の衝動が中島から何かを引き出すんです。菅田がやり散らかして、中島がそれを受け止める。二人はお互いにリスペクトし合っているような感じがしましたね。菅田のアートのような演技を、中島は深刻に受け止めてから、自分を解放していくっていうのかな。すごくいいリレーになっていました」
――菅田さんと中島さんは、今回の撮影で親しくなられたのですか?
菅田「そうですね。僕は公私ともに仲良くなれる共演者の方って割と少ない方なんです。そんな中で、裕翔とは公私ともに一緒にいることのできる関係になりました。裕翔だから、遠慮せずに自由に演じられたと思います。台本を読んだ時に、行定さんは僕に、裕翔に刺激を与える役割を求めていると分かったので、『裕翔、ゴメン!』と思いながら、劇中、彼を殴ったりしました(笑)」
行定「こういう映画は、友情がなかったらダメだと思うんですよ。二人は、すごく早い段階で友情を育んでいました。プロフェッショナルであることをちゃんと意識しつつ、一見無茶苦茶なこともするんだけど、それが映像的に無茶苦茶にならないことも知っているんだよね。二人とも、若いのにポテンシャルが高いと思いました」
――中島さんは、本作が映画初出演でしたが、好印象ですね。
行定「彼にしかできない佇まいがあるんですよね。菅田もだけど、中島にも今後のイメージがわいてきますね。2人とも、期待できる若手俳優ですよ」
――監督は若い俳優さんの演出をされる際、彼らを育てるというか、こんな役者になってほしいというような気持ちを込めたりしますか?
行定「育てようということはないし、基本的に何も言わないですね。僕は、素直で根が真面目な人間が好きなんです。演技でやり散らかしても、役として最終的に全てを回収できる真面目さが大切だと思います。菅田のような役者には『やり散らかしていいよ』と言って、それをできる環境を作ってあげる。変な駆け引きをする演出家もいるだろうけど、僕はそんなの必要ないと思いますね。役者に対して威厳を保とうとするとか、そういうのは面倒くさい(笑)。とりあえず好きなように演じてもらって、若い役者たちを真剣にさせることができたら、それは自分にとってすごく楽しいことだと思う。役者も演出家も、本当に楽しかったと思えたら、それが映画に映し出されると思います。それを観客にも感じてもらいたいです」
――菅田さんは、素直で真面目な、監督が求める役者さんなのですね。何年かして、またご一緒した時、成長した姿を見るのが楽しみですか?
行定「もう、何年も待たずに、しょっちゅう一緒にやりたいね。俺の映画に毎回出てほしいくらいだよ」
菅田「次は何をやりますか!?」
行定「だって菅田、忙しいじゃん。俺、会う監督、会う監督みんなから『菅田将暉とやりましたよー』って言われるもん(笑)。何本やってんだよって! まあ、日本映画界で一番期待されている、一番欲されている俳優だからね。なかなか捕まえられないけど、何回でも一緒にやりたいですよ」
菅田「(ひたすら照れながら)初めて日本アカデミー賞に出席した時、パンフレットを読んだら、監督の『GO』が賞を総なめにしたことが書かれていて、すごいと思いました。主演の窪塚洋介さんは当時、今の僕と同じ年くらいだったと思いますが、ものすごいカリスマ性があって。それは作品に対しても同じで、すごい勢いが感じられました。だから、今回『ピンクとグレー』のお話が来た時、『行定さんだ!!』みたいな感じで飛びつきました(笑)」
―――相思相愛ですね(笑)。まだまだお話を聞きたいのですが、そろそろお時間のようなので……。では最後に「ピンクとグレー」のストーリーにちなんで、お二人に質問です。とても親しい友達が先に出世して、自分の手の届かない場所に行ってしまい、自分のことのように喜ぶ気持ち反面、嫉妬するという、そんな複雑な感情を抱いた経験はありますか?
行定「それはもう嫉妬しかないでしょ。喜ぶ余裕なんてない(笑)。それとは、ちょっと状況が違うかもしれないけど、年を取って妬ましい気持ちがあまりなくなってきたのか、一緒に仕事をしたカメラマンが撮影賞を取った時はすごく嬉しかったね。俺、泣いたんですよ。なんであいつのために俺が泣くんだってくらい。その経験は不思議なものでした」
菅田「僕の場合は小さい話になりますけど、高校時代に一緒に教師を目指していた親友がいて、二人で『教師になると定年まで自由がないだろうし、大卒3年までは新卒扱いらしいから、その間に世界一周しようぜ』と約束したんです。でも、僕はこの世界に入ったから、約束を果たせなかった。で、その親友は日本を飛び出して、今、カナダにいるんですよ。それはうれしくもあり、嫉妬心もあるかもしれないですね。でも、お互いに好きなことができているのは、うれしいと思っています」