C型肝炎は自覚症状がないまま進行し、やがて肝硬変、肝がんを発症する怖い病気。これを防ぐには感染の早期発見とウイルスを除去する治療が重要だ。2015年7月に承認された新薬などで、患者の負担が少なく、完治を目指せるようになってきた。

 国内に200万人いるとされるC型肝炎ウイルス感染者。国立国際医療研究センター国府台病院の溝上雅史肝炎・免疫研究センター長は、「このウイルスは針で皮膚を刺したり、外科治療などをしないと感染しない。医療行為で起きる病気(医原病)ともいえる」と話す。

 日本では西洋医学導入後の外科治療や予防接種のほか、戦後のヒロポン(覚醒剤)注射や買血によって拡大。1987年の抗体検査導入後は感染した血液が使われなくなったが、それまでに多くの人が感染した。

C型肝炎ウイルスは注射針などによって感染する「医原病」でもある。日本では西洋医学の導入とともに広がりはじめ、戦後のヒロポン自己注射、買血制度などによって世界で最も感染者の多い地域の一つとなった。(データ:溝上センター長)
C型肝炎ウイルスは注射針などによって感染する「医原病」でもある。日本では西洋医学の導入とともに広がりはじめ、戦後のヒロポン自己注射、買血制度などによって世界で最も感染者の多い地域の一つとなった。(データ:溝上センター長)
C型肝炎は、感染初期には発熱、全身倦怠感などがあるが、慢性化するとほとんど症状がないまま進行し、少しずつ肝臓の組織にダメージを与える。治療をしないと約20年後には肝硬変、肝がんを発症することもある。
C型肝炎は、感染初期には発熱、全身倦怠感などがあるが、慢性化するとほとんど症状がないまま進行し、少しずつ肝臓の組織にダメージを与える。治療をしないと約20年後には肝硬変、肝がんを発症することもある。

 92年には体内のウイルスを消すインターフェロンの注射治療が始まったが、期待通りの効果は上がらなかった。ウイルスには複数の型があり、日本人患者の7割を占める1b型はインターフェロンが効きにくかったのだ。04年には作用時間が長く、より副作用が少ないペグインターフェロンとのみ薬リバビリンの併用療法が登場したが、1b型では効果は約5割程度。

C型肝炎ウイルスには1a、1b、2a、2bという型がある。日本人の7割は、インターフェロンや従来の抗ウイルス剤が効きにくい1b型。
C型肝炎ウイルスには1a、1b、2a、2bという型がある。日本人の7割は、インターフェロンや従来の抗ウイルス剤が効きにくい1b型。
2015年7月に承認された新薬「ハーボニー」は、ソホスブビルとレジパスビルという薬剤の配合剤。単独でもほかの薬との併用でも96~100%という高い効果。1日1回1錠と患者の負担も少ない。
2015年7月に承認された新薬「ハーボニー」は、ソホスブビルとレジパスビルという薬剤の配合剤。単独でもほかの薬との併用でも96~100%という高い効果。1日1回1錠と患者の負担も少ない。

 状況が激変したのは2014年。溝上センター長は「C型肝炎ウイルスが試験管内で培養できるようになり新薬開発が加速した」と話す。すでに4剤が発売されており、最新薬は2015年7月に承認された「ハーボニー」。これは同年5月に2A、2b型の治療薬として発売されたソホスブビルに、レジパスビルという成分を加えることで1b型にも非常に高い効果を示す薬剤だ。

 臨床試験では、初めて治療する患者だけでなく、他治療で効果がなかった人を含めても96~100%の人でウイルスが除去された。1日1回、1錠を12週間飲むだけでよい。「長期入院の負担や薬の副作用なしにウイルスを消失できる」と溝上センター長は新薬の普及に期待する。

 問題はこの領域の新薬の薬価が1錠数万円以上と高額なこと。患者負担が大きくなる不安があるが、実は国全体で見れば肝がんを発症してからかかる医療費を抑制できるメリットがある。そのため、2015年8月31日からハーボニーは医療費の助成対象となった。助成対象となる治療期間は12週間で、患者負担は市町村民税(所得割)課税年額に応じて月1万円または2万円になる。

若い人も感染とは無縁じゃない
一度は検査(無料)を

現代でも、若い世代でのC型肝炎感染が散見される。溝上センター長は「その多くが、ピアス、入れ墨などによる感染だと考えられる」と話す。一般的に手術、出産、胃カメラ検査などを受けるときには事前にウイルスの有無を調べるが、こうした経験のない人は一度、地域の保健所などで相談を。多くの自治体で40代以上なら無料で検査が受けられる。

この人に聞きました
溝上雅史
国立国際医療研究センター国府台病院
内科系統括診療部門長
肝炎・免疫研究センター長

溝上雅史
C型肝炎の患者は高齢化している が、治療することで肝硬変や肝がんによる死亡率などが下がることが調査で分かっている。よい薬が登場しているので、積極的に検査を受けて完治を目指してほしい。

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文/荒川直樹(科学ライター)

日経ヘルス 2015年10月号掲載記事を一部再構成
この記事は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります