ドイツの選挙に見る、世界共通の悩み

増田 9月には、メルケル首相の再選に注目が集まるドイツを取材してきました。

 第1党の「キリスト教民主同盟」と第2党の「社会民主党」が大連立を組み、残りの議席を「左翼党」と「緑の党」で占めていましたが、その結果はどうなったか。

 選挙中の街はポスターが電柱に貼ってあるくらいで、いたって静かでした。どうやって活動しているんだろうと思っていたら、左翼党が街頭でコーヒーとグミキャンディを配っているところに遭遇しました。よく見たら、現職の議員がなにげなく立っていて。タスキをかけるわけでもなく、演説をするわけでもなく、質問があれば答えるという感じでしたが、その人は再選していましたね。

自分の足で取材してきた世界の選挙について話してくれた増田ユリヤさん
自分の足で取材してきた世界の選挙について話してくれた増田ユリヤさん

池上 おしゃれですね。タスキかけて選挙カーで演説するって……ダサいよね(笑)。

増田 第2党である社会民主党の党首は「私たちは野党になります。連立も組みません。与党に手柄を取られたくない」と演説し、大喝采を浴びていましたが、第1党、第2党ともに議席数を減らすという選挙結果に。代わりに台頭したのは「ドイツのための選択肢」というイスラム排斥主義の党でした。

 これに危機感を持った与党は、彼らに対抗するために連立を組もうとしましたが失敗。選挙をやり直そうという話も出ていますが、また議席を減らすのではないかという不安もあり……今ドイツは大連立をめぐって大きく揺れています。

池上 「大連立」は、過半数を超えていない党が過半数を取るために他党と組むことですね。日本の自民党も公明党と連立を組んでいますが、過半数を超えているので大連立とは言いません。

 「キリスト教民主同盟」は「社会民主党」と連立が組めず、かと言って「ドイツのための選択肢」はメルケルに猛反対している極右政党だから政権には入れられない。残りは「自由民主党」と「緑の党」「左翼党」ですが、移民受け入れをめぐって意見が対立している。板挟みになってしまった「キリスト教民主同盟」は、連立が組めなくなってしまったわけですね。

増田 再選挙も嫌だということなので、「行くも地獄、戻るも地獄」というような状況になっています。

池上 おしゃれな選挙をしていたけど、結局、どこが選挙公約を守って政策を実現してくれるのか、ということになるわけですね。そのために、どこと連立を組めばいいのか?ってことになると、これは世界共通の悩みなんだな、ということですよね。

増田 今回取材してみて感じたのは、みんなが満足するのは難しいということでした。現地の人たちの思いや、どういう生活をしたいかという希望があっても、それを実現する政府との考え方が違うこともあります。そして、歴史の影響はどこの国でも大きいんですね。

池上 それぞれの独自性があるから独立の動きも出てくるんですよね。

 しかし、カタルーニャ地方はスペインからは独立したいけど、EUには留まりたい。北アイルランドやスコットランドにしても、EUがあるからこそ、独立という動きが出てくるということです。

 つまり、世界には「独立して別々になりたい」という動きと、EUのように「一つにまとまるべきだ」という動きがある。二つのベクトルがぶつかり合っているこの状態が、今ヨーロッパが揺れ動いている背景です。これからニュースを見るときには、このことを思い出していただければと思います。

文/渡辺絵里奈 写真/中村嘉昭