「苦しいときも一人ではない」

 サッカーは前半・後半合わせて90分、さらに延長戦、PK戦、と長時間を戦い抜くスポーツです。相手が優勢だったり、思うようなプレーができなかったり……試合中には苦しい時間帯を乗り越えるタフさが求められます。そんなときに大事にしていたのが、「苦しいときも一人ではない」という言葉。

 「サッカーはチームプレーですから、自分が苦しい時間帯はみんな苦しいんです。苦しいのは自分だけじゃないんだ、みんな一緒なんだと思うと、『もっと頑張ろう』という気持ちが湧いてくるんです」(澤さん)

「自分が苦しいときは、みんなも一緒なんです」(澤さん)
「自分が苦しいときは、みんなも一緒なんです」(澤さん)

 周囲とともに苦しさを乗り越えるため、澤さんが心掛けていたのは「黙って背中で見せる」スタイル。

「あれこれ口出しするよりも自分が得点を決め、体を張って行動で示すようにしていました。そのほうがみんなから信頼してもらえます」(澤さん)

 2011年W杯決勝の延長戦、アメリカに逆転されても自らのシュートで同点に追いついた澤さんの姿がよみがえります。

 さらに、チームメートの頑張りも「褒める」。たとえライバルチームであっても、良いプレーをしたときは褒めていました。「褒められるとうれしいし、自信になります。相手の良さを素直に認めることも大事ですね」(澤さん)

「プレッシャーは克服しない」

 「プレッシャーは克服しない」という言葉は意外な印象も受けますが、「誰にでも得意・不得意があって当然」だからというお話です。

 「人それぞれ得意なことは違いますし、澤穂希みたいな選手が11人いても試合には勝てません。例えば、私はあえて足が速い選手には挑まず、『絶対に人には負けない決定力』に磨きをかけていました」と説明する澤さん。例えば、2011年W杯決勝のPK戦では、5人のキッカーリストから外してもらいました。澤さんはPKが苦手なので、得意な選手が蹴るほうがチームのためになると判断したからです。

 自分をよく知り、長所を磨いていけば「大舞台のプレッシャーも跳ねのけられる」と言います。「『ここまで練習してきたんだから、絶対に大丈夫!』と自分に言い聞かせることができます。仕事の会議でも、プレゼンでもそれまでちゃんと準備をしてきたのなら、きっと大丈夫です」(澤さん)

 そういう澤さんも以前は緊張して、試合前の整列のときには手のひらに「人」を3回書き、飲み込んでいたこともあったとか。「でも、年々緊張感も楽しめるようになりました。大舞台や大事な場面に立てる特別感を楽しみたいと思っています」(澤さん)