運営から企画へ 出産乗り越え「代表」に

 やがて、当日の司会や受付など運営業務の他に、勉強会のテーマやゲストを決める企画業務も始めました。

 「のめりこみましたね。この活動に取り組むまでは思いもよらなかったのですが、他のメンバーの役に立てたという実感から、実は自分は企画することが得意だし、楽しいのだということに気が付きました」(松尾さん)

霞ヶ関ばたけ運営のために使用しているロルバーンのノート
霞ヶ関ばたけ運営のために使用しているロルバーンのノート
TO DOを整理したり、アイデアをメモしたりする。「勉強会を運営するようになってから、実は自分は企画することが得意だし、楽しいのだということに気が付きました」(松尾さん) 写真/松尾さん提供
TO DOを整理したり、アイデアをメモしたりする。「勉強会を運営するようになってから、実は自分は企画することが得意だし、楽しいのだということに気が付きました」(松尾さん) 写真/松尾さん提供

 結婚後、間もなく妊娠し、出産前後は体調不良などで活動ができなくなった時期もありました。しかし、運営メンバーから「松尾さん、子連れでもいいからおいでよ」と声を掛けられたことがきっかけで復帰することになります。

 「当時生後6カ月だった子どもを、朝7時半から始まる勉強会に連れて行けるのか。不安もありましたがいざやってみると、子どもを抱っこしながらの運営も、朝の満員電車も意外と乗り切れました」(松尾さん)

 小さな自信をつけた松尾さんは2018年1月、それまでリーダーを決めずに活動していた運営組織で自ら「代表」を買って出ます。代表をやりたいと思った理由は何だったのでしょうか。

 「霞ヶ関ばたけの役割は、『食』や『農林水産業』に関心を持つ人たちのつながりをつくり出すこと。一人が抱えている困ったことや挑戦したいことを他の人にも聞いてもらったら、きっといろいろなフィードバックがある。前に進む力にもなる。そのお手伝いができることに、大きなやりがいを感じたんです。企画には責任が伴うのでプレッシャーもありますが、そんな『場』づくりに繰り返し立ち合い続けることで、今後も『自らの手で発展させていきたい』という気持ちが強まりました」(松尾さん)

忙しいけど「やりがいしかない」

 国家公務員の副業には制約が多そうですが、2018年6月に政府が閣議決定した未来投資戦略には、「公益的活動等を目的とした兼業」について、取り組みやすい環境を整備する方針が盛り込まれました。もちろん、職場の承認は必要ですが、活動内容によっては有償での副業も法的な問題はありません。

 一方、松尾さんの「霞ヶ関ばたけ」での仕事には報酬は発生していません。もちろん、勉強会を開催するための会場費などの運営費がかかるため、勉強会の参加者から参加費をもらってはいますが、そのお金は団体の運営費に充てられます。それでも「本業と同じくらい、大切な仕事だと思っている」と語ります。

 「自分のやりたい仕事を、やりたい方法でやる。こんな『場』にしたいな、という空気感を自由につくる。本業との両立は忙しいけれど、やりがいしかありません。大きな組織に属していると、なかなか発揮できないスキルも、伸ばし、生かすことができている実感が持てるからです」(松尾さん)

 参加する人々とのつながりが、本業にいい影響を与えていく確信もあります。

 「現在所属している林野庁での本業は、民間の企業や団体とのコラボレーションが多い仕事なので、親和性が高いと思います。以前、担当していた法律をつくる仕事についても、今だったらもっと自分らしく取り組めるのではないかという実感が湧いてきました。法律や仕組みって、霞ヶ関の中だけでつくるものじゃなくて、勉強会で出会うようなさまざまな人たちとのつながりの延長線上にあるものだと思うから」(松尾さん)

霞ヶ関ばたけの様子。幅広い年齢、職業・業種の人が集まる 写真/大槻慶
霞ヶ関ばたけの様子。幅広い年齢、職業・業種の人が集まる 写真/大槻慶

 勉強会で大切にしているのは「楽しくて、エネルギーになる空気感」と語る松尾さん。肩肘を張らない「朝活」が、本業へのモチベーションに自然と結び付いていく好循環が生まれています。