細菌と寄生虫にあたって食中毒に!

 異国での暮らしは不慣れな点もあります。ましてやインド。日本では考えられないようなことも日常茶飯事です。電車はひどく遅れてくるし、約束の時間を守らない人も多いです。学生時代遅刻魔だった私には、相手も遅れて来るインドはとても楽なんですけどね(笑)。停電や断水も多くて、お風呂の水が何日も止まった時は、キッチンの水をバケツにくんで浴びました。エアコンが壊れた時は、修理を頼んだ業者がいつまで待っても来なくて、結局1年間エアコンなしで過ごすはめになりました。冷凍庫を開けて頭を突っ込んだり、ペットボトルの水をキンキンに冷やして首に当てたりして、蒸し暑い日々を乗り切ったんですよ。

 少しだけ心細くなるのは、病気のときです。あれはまだ移住する前のことですが、屋台で買ったフルーツジュースにあたったことがありました。飲んだ瞬間「ん? 味が変」と思ってよく見ると、なんだか色が黒っぽい。嫌な予感がして残したのですが、しばらくして具合が悪くなったんです。吐くわ下すわで、市販薬は効果がなく、宿泊先にお医者さんを呼ぶと、食中毒だと言われて点滴をしてくれました。

 その治療でいったんはよくなったのですが、突然第2波が襲いました。別の医者に診てほしくて、友達に付き添ってもらって病院で検査を受けると、なんと細菌と寄生虫にダブルであたったことが判明。そのまま5日間入院になってしまったんです。さすがにへこみましたね。でも、そんな経験をしてもインドを嫌いにはならなかったんです。これまで食中毒は3回、入院は2回しています。もう慣れていて、症状で食中毒だと分かるほどです。

「ドクターが、天井に付いた大きなファンに点滴のチューブをつり下げた時は、おかしくて笑ってしまいました。もちろん、その間ファンは止めなければいけません。暑い日でつらかったです」
「ドクターが、天井に付いた大きなファンに点滴のチューブをつり下げた時は、おかしくて笑ってしまいました。もちろん、その間ファンは止めなければいけません。暑い日でつらかったです」

ダンスの先生がお金を持ち逃げ

 つらかったのは、ムンバイで暮らし始めて4年目に、当時ダンスを習っていた先生に裏切られたことです。移住前からずっと古典舞踊を習っていた先生にお金を貸したまま、連絡が取れなくなってしまったんですよ。とても慕っていた先生だったので、ひどくショックでした。ダンスクラスも突然なくなってしまい、あの時は、たまるフラストレーションをどうにもできませんでした。嫌なことがあってもダンスさえあれば生きていけたのに、そのダンスで嫌な目に遭い、おまけにダンスのできる場所がなくなってしまったんですから。

 悩みましたが、裏切った先生はもう尊敬できないし、見切りをつけるしかありません。そこで、同じ流派の本家本元の大師匠で、以前ショーを見てとても素晴らしいと思っていた方に連絡を取り、古典舞踊を教えてほしいとお願いしたのです。

 結果的には、それが幸いしました。2016年10月から師事しているジャヤンティー・マーラー・ミシュラ師匠は、舞踊家歴50年以上のカタックダンスの正統派の家元。彼女のお母様シターラー・デーヴィーさんは、カタックの女王とも呼ばれる大変有名な舞踊家・ボリウッド女優で、ご家族は代々ミュージシャン、ダンサーのお家元だったのです。ジャヤンティー・マーラー・ミシュラ師匠のご指導は素晴らしく、私のスキルも急激にアップしました。(次回に続く)

「カタックダンスの師匠ジャヤンティー・マーラー・ミシュラさんと。代々守ってきた伝統的な舞踊を、日本人の私に教えてくださって、ありがたく思っています!」
「カタックダンスの師匠ジャヤンティー・マーラー・ミシュラさんと。代々守ってきた伝統的な舞踊を、日本人の私に教えてくださって、ありがたく思っています!」
Profile
ヒロコ・サラさん
インド古典舞踊カタックダンサー、ボリウッド・インディアン・ベリー・フュージョンダンサー、TV CMモデル。インドの古典舞踊カタックダンス、ボリウッドダンス、ラージャスターニ・ジプシーダンス、中東のベリーダンスなどを学び、インド各地で開催されるイベントに多数出演。日本に一時帰国時には、インド大使館やインドレストランなどのイベントでダンスを披露するなど、古典舞踊カタックダンスをメインに、日印両国でパフォーマンス活動中。ホームページ:http://sarahhiro.seesaa.net/

聞き手・文/金田妙 写真/清水知恵子