人生初のインド旅 スラム街で迷子に!

「インドを初めて一人で旅した時の写真です。現地で買ったお気に入りの服を着て。インドにはすてきなデザインの服がたくさんあるんですよ」
「インドを初めて一人で旅した時の写真です。現地で買ったお気に入りの服を着て。インドにはすてきなデザインの服がたくさんあるんですよ」

 最初の旅は、約1カ月の滞在でした。1週目は、首都のニューデリーとオールドデリー、砂漠地帯のジャイプル、そしてタージ・マハルで有名なアーグラーという、北インドゴールデントライアングルと呼ばれるルートを回りました。一人旅でしたが、ネットで信頼できる現地のツアー会社を見つけ、専用車をチャーターしてドライバーさんに案内してもらったので、安心でした。

 その後私はムンバイへと移動しました。撮影クルーの友人がムンバイ在住でしたし、何より本場でボリウッドダンスを習いたかったからです。ムンバイは、かつてボンベイと呼ばれ、イギリスの東インド会社の拠点として繁栄した町です。今も活気あふれるムンバイで暮らし始めた私は、すぐにこの町が自分にとても合っていると感じました。感覚的なのでうまく言葉では表せないのですが、肌に合ったんです。人々もおだやかで海も近く、あまりの居心地のよさに、「私の帰ってくる場所はここだ」と思ったほどでした。

 仕事で留守だった友人の家を借り、ショッピングモールへ行ったり映画を見たり。もともと私は、集団より一人で行動するほうが好きなんです。もちろん安全には気を付けていたのですが、一度迷子になった時は、さすがにドキドキしました。宿泊先から遠く離れた場所から帰ろうとしたら、タクシーに乗車拒否をされ、乗せてくれるタクシーを探しているうちに道に迷ってしまったんです。

「インドのタクシーやリクシャーって、乗せたくないと、平気で乗車拒否をするんですよ」
「インドのタクシーやリクシャーって、乗せたくないと、平気で乗車拒否をするんですよ」

 時間は夜9時ごろ。気付くと周りはスラムのような場所で、グーグルマップで調べても自分のいる場所が分かりません。見かけたおじさんに恐る恐る助けを求めると、私の代わりにタクシーをつかまえてくれたんです。お礼を要求されるかと思って財布を開けたら、「お金なんていらないから早く乗りなさい」と。感激しましたね。

 これは、たまたまラッキーだったのだと思います。インドを旅して、嫌な目や危険な目に遭う人は少なくありませんから。でも私は、北インドでもムンバイでも、出会ったインド人が皆親切だったんです。おかげでインドの印象が、とてもよいものになりました。

日本とインドを行ったり来たり

 ムンバイを訪れたいちばんの目的はダンスです。ネットでダンス教室を探し、ボリウッドダンスに加えてインドの古典舞踊のクラスも見つけました。飛び込みで「習いたいんです!」とお願いすると、突然やって来た外国人にもかかわらず、先生は喜んで受け入れてくれました。古典舞踊を習おうと思ったのには理由があります。ボリウッドダンスのダンサーでも、古典の基礎ができている人は踊りがとてもうまく、優雅で美しいのです。映画を見ていても一目瞭然。軸がしっかりしていて、ターンをしたときなどに体がぶれないんですね。だから私も古典を習ってみたかったんです。

 本場の雰囲気の中で、インド人の先生から、インド人の生徒たちに囲まれて習ってしまうと、もう日本で教室を探そうとは思えません。「また絶対にインドへダンスを習いに来る!」と誓って帰国し、その数カ月後に再びインドへ旅立ったのです。今度は、ムンバイの他に、北西部のラージャスターン州ジャイサルメルという町を訪れ、ラージャスター二スタイルのダンスも習いました。

「ジャイサルメルには、女性の格好をして踊る素晴らしい男性ダンサーがいて、彼に踊りを習いたくて、個人レッスンを受けたのです」
「ジャイサルメルには、女性の格好をして踊る素晴らしい男性ダンサーがいて、彼に踊りを習いたくて、個人レッスンを受けたのです」

 こうして私は、日本とインドを行き来するようになりました。日本で数カ月働いてお金をためると、インドへ行って3カ月ほど滞在し、ダンスを習う日々が始まったのです。それができたのは自営業だったからですが、本当はいっそインドへ移住したかった。でも私にはそれができない事情がありました。自宅で両親の介護をしていたんです。(次回に続く)

Profile
ヒロコ・サラさん
インド古典舞踊カタックダンサー、ボリウッド・インディアン・ベリー・フュージョンダンサー、TV CMモデル。インドの古典舞踊カタックダンス、ボリウッドダンス、ラージャスターニ・ジプシーダンス、中東のベリーダンスなどを学び、インド各地で開催されるイベントに多数出演。日本に一時帰国時には、インド大使館やインドレストランなどのイベントでダンスを披露するなど、古典舞踊カタックダンスをメインに、日印両国でパフォーマンス活動中。ホームページ:http://sarahhiro.seesaa.net/

聞き手・文/金田妙 写真/清水知恵子