自分の持ち味って、なんだろう?

 スクールを主宰する田崎さんは世界一のソムリエです。初代支配人は全日本チャンピオンのソムリエで、私の前の支配人も他の講師たちも、何かしらのタイトルを持っていました。でも私には何もありません。取りあえず上級資格であるシニアソムリエの資格を取ってはみましたが、やっぱり何か自分の持ち味が欲しかったんです。

 それはなんだろうと悩む中で、ふと、入社前に取っていたチーズの資格に気付いたんです。

 スクールでは、「チーズのことは村瀬さんに聞こう」と、教材作りやチーズのカットを頼まれていました。チーズの資格は、名だたる講師陣も誰も持っていないし、チーズのことなら頼りにされるのだと気付いた私は、ワインよりチーズで戦おうと決めたんです。「戦う」なんておかしな言い方ですけど、意外と勝負師なんですよ(笑)。

チーズ産地を訪れるようになった村瀬さん。南仏シェーヴル農家でヤギの赤ちゃんと 提供/村瀬美幸
チーズ産地を訪れるようになった村瀬さん。南仏シェーヴル農家でヤギの赤ちゃんと 提供/村瀬美幸

 それからは年に数回ヨーロッパのチーズ産地を訪れ、農家や工房、専門店などを見学し、あらゆるチーズを食べました。そうしてチーズの勉強に専念するようになった私は、フランスで行われるチーズの国際大会に挑戦することにしたんです。

2006年、私は、代表選でもある国内大会で最優秀賞を取り、準優勝の方と二人一組で、翌年の国際大会に出場しました。集まったのは12カ国の代表選手。筆記テスト、テイスティング、大きなチーズを指定された重さに切るカットテスト、ショーケースにチーズ売り場を作るテスト、選んだチーズをプレゼンするスピーチテストなど、7つの課題で競います。チーズはすべて自分たちで用意し、そのセレクトやコンディションのよさも審査の対象でした。

 結果、私たちは4位でした。前回大会で日本チームは7位だったので、順位が上がってほっとしていました。

 ところが、発表された各国の点数を見ると、1位のフランスはダントツでしたが、2~4位は僅差だったんです。あと数点取れていたら3位や2位にもなれていたと知り、急に悔しさが込み上げてきました。「テイスティングでもう一つチーズを当てればよかったんだ」「重さをもっと正確に切っていたらよかったんだ」と、ペアの選手と大泣きし、2年後の次の大会に必ず戻ってくると誓ったんです。