29歳で帰国 1年もかけて書いた原稿は…

 こうして私は、途中シャンティ国際ボランティア会(SVA)へと所属を変え、5年半もの間、難民キャンプの図書館にいました。モン族の民話に出合い、刺しゅう絵本作りを始めたら楽しくて、帰れなかったんです。キャンプはやがて閉鎖になりましたが、私はその前にSVAを退職しました。最後まで見届けたいという思いはありつつも、見送る側に回るのが寂しかったんです。長く勤めるうちに事務仕事をやらなければいけなくなったことも、辞職の理由ですね。本当はあの仕事がしたいのに、この仕事をしなくちゃいけないという状況が、どうも苦手なんです(笑)。

刺しゅう絵本に囲まれた安井さん
刺しゅう絵本に囲まれた安井さん

 こうして20代をタイで過ごし、日本に帰ったのは29歳。「バブルがはじけた」と聞いても「バブルって何?」という世界でした。仕事を探すにも、何をしたらいいのか分かりません。ただとにかく、これまで経験してきたことを書かなくちゃと思い、記録を読み返しながら1年かけて原稿を書き上げ、出版社へ持ち込んだんです。結果は、けんもほろろに断られました。

 「あ~あ、1年もかけて書いたのにな」とへこんでいると、SVAがラオスで図書館活動を始めるという話を聞きつけ、「じゃあ私が行きます!」と、再び雇ってもらったんです。難民キャンプにいた頃、ラオスはタイと国交がなく、川向こうに見えているのに行くことのできない国でした。そして出会ったモン族の人々の故郷でもあります。そんなラオスへ行ってみたかったんです。

1年かけた原稿も、ある編集者との出会いで、晴れて出版できました
1年かけた原稿も、ある編集者との出会いで、晴れて出版できました