これから取り組んでみたいこと

 現地での活動は、その国の人と接するだけでなく、さまざまな国の人とチームを組みます。活動現場では、チームメンバーが頻繁に入れ替わります。だから、日本にいたときは見えなかった、日本の良さも見えるんですよ。日本人って本当にまじめで責任感が強いんです。

 現地で活動する人たちは国籍も職種も経験も違いますが、チーム全員の人道援助に対する思いは共通していて、全員が同じゴールを目指して活動します。上下関係も、損得、妬みは一切なく、チームワークが乱れることはまずありません。意見の衝突は頻繁にありますが、原因は患者さんへの思いがベースであることが多いんです。逆に言えば、そこには自分の意見が堂々と言える環境があるということです。

 この仕事に就くための留学で私の背中を押してくれた母は、いつも自然で変わりない様子で私に接してくれます。紛争地で働く娘の親として心配はあると思いますが、私がこの仕事を好きなのを知っているからでしょう。

 海外に旅立つときは、「行ってらっしゃい。頑張ってね」と笑顔で駅まで送ってくれます。そして、帰って来ると、「お帰り」と迎え入れてくれ、実家の冷蔵庫には私の好きなものばかりが用意されています。部屋のベッドには帰国時の季節に合わせて布団が用意されていて、冬には毛布に羽毛、電気マットレスまで、これでもかというぐらいの寝具が用意されているんですよ。母の愛を感じます。

 今、現地での活動と共に力を入れてやっていきたいと思うのは、現地で見てきたこと、感じたことを多くの人に「伝える」ことです。自分の目で見てきた、世界ではこんなことが起きているという現実を訴えていきたいんです。私の話を聞かなければ、そんな世界はまるで知らなかったという人がたくさんいる。自分の経験だけに留めるのではなく、その経験を話すことで支援の輪を広げていきたい、そう思っています。

白川優子(しらかわ・ゆうこ)
1973年埼玉生まれ。「国境なき医師団」手術室看護師。7歳のときにテレビで観た「国境なき医師団」に感銘を受ける。高校卒業後、4年制(当時)の坂戸鶴ヶ島医師会立看護専門学校に入学。卒業後は埼玉県内の病院で外科、手術室、産婦人科を中心に約7年間看護師として勤務。2003年にオーストラリアに渡り、2006年にオーストラリアン・カソリック大学看護学部を卒業。その後約4年間、メルボルンの医療機関で外科や手術室を中心に看護師として勤務。2010年、「国境なき医師団」に参加。イエメン、シリア、南スーダン、イラクなど、主として紛争地で活動を続ける。

聞き手・文/大塚千春 写真/稲垣純也