「私、看護師になりたい!」

 看護学校を受けるには、普通高校卒業と同等の学力が必要でした。ところが、商業高校は普通高校とはカリキュラムが異なり、そのために英語などの力が足りないということが分かりました。クラスメートはそれを補うために予備校に通っていたのですが、私には準備をする時間がありませんでした。

 ところが、懸命に調べるとラッキーなことに、難易度が普通の看護学校より緩やかな4年制の定時制看護学校が地元に新設されたばかりであることが分かったんです。当時としては珍しく、半日勉強して半日病院で働くというカリキュラムの学校でした。そこで、その学校への進学を決めました。

 学校のカリキュラムのお蔭で、高校を卒業してすぐ病院で働き始めることができました。これがとてもよかった。まだ看護師の資格はないので、患者さんをお風呂に入れてあげる、頭を洗ってあげる、ご飯を食べさせてあげるといった、いわゆる介助の仕事が多かったのですが、患者さんに接するのが好きで、毎日が充実していました。

「患者さんに接するのが好きで、毎日が充実していました」
「患者さんに接するのが好きで、毎日が充実していました」

 総合病院で働いていたので、外来から入院されている患者さんまで、年齢も状態もさまざまな患者さんに接することができたことも、大きな経験となりました。病気でぐずる子どもに対応することもあれば、お年寄りが安らかな最期を迎えられるように看護することもある。看護師というのは「人の人生に関わらせていただいている仕事」で、素晴らしい世界だと心より思うようになったのです。その思いは、現在の「国境なき医師団」での仕事でも同様です。

 なぜ、医者になりたいと思わなかったのかとよく聞かれるのですが、医者になりたいと考えたことは一度もありません。医者にはできない、看護師だからこそ患者さんにしてあげられることはたくさんあるんです。

 例えば、患者さんには薬を処方するだけでは解決できない痛みや不安があります。でも、その声に耳を傾け、話を聞いてあげると、痛みや不安が和らぎ、患者さんが眠れるようになることもある。また、声に出して訴えていることだけが、本当に患者さんが言いたいことではないこともあります。だから、看護師はこの患者さんはどうしてあげると一番いいのだろうと、いつも考えています。人と人が直接、密に接する仕事である看護の世界は本当に奥深いんです。