今後、副業が当たり前になっていく中で、時間の切り売りをする仕事を副業や兼業に選ぶことは、ブラックな働き方につながりかねません。会社員を続けながらも、自分の価値を見極め、能力を役に立つ形でパッケージ化するには、どうしたらいいのでしょうか。この連載では、働き方改革のコンサルティングを行っている池田千恵さんが、「ポータブルスキル(持ち歩き可能な、どこでも通用するスキル)」を磨く方法を指南します。第5回の今回は、副業をする上で最も難しい「値付け」。どうしたら、自分の仕事に適正な値段を付けることができるのでしょうか。

無料で仕事を頼まれた…なぜ、損をしたようなモヤモヤを感じるのか

副業で必ずぶち当たる「値付け」の壁。どう乗り越える? (C)PIXTA
副業で必ずぶち当たる「値付け」の壁。どう乗り越える? (C)PIXTA

 自分よりも人の都合を優先し、自分の気持ちや「こうしてほしい」という希望を伝えるのがついつい後回しになってしまう、ということは誰でも一度は経験しているのではないでしょうか。

 あなたも心当たりはありませんか?

●趣味の活動やイベントで、本当はものすごく手間と時間と費用がかかっているのに、友達だからといってお金も請求できずに、ちょっとソンした気分になった

●ボランティアでお願いします、と言われて、納得して受けたものとはいえ、自分から喜んでやっているわけではないのに報酬ももらえないのは、なんだかモヤモヤする

 実は、こうした「モヤモヤ」をないがしろにしていると、「じぶん商品化」(=「自分の価値がここにあるのではないかな?」と仮説を立て、パッケージ化し、値付けして販売しながら試行錯誤を繰り返すことで、どこででも通用するスキルを磨くこと)の妨げとなります。なぜならば、「じぶん商品化」には、自分の労働に対して正当だと思う金額を相手に請求することが不可欠だからです。

 でも、経験のない人にとっては、お金の請求はとても怖いことです。特に友達からの依頼だと、この分だけの作業量に対する対価をください、というのも気が引けるし、そこまで自分のやっていることに価値があるかも分からないし、売り込みや親切の押し付けだと思われて今後の関係性を崩したくないから、どうしたらいいか分からない……モヤモヤはガマンするしかない、と思うのも分かります。

 頭で分かっていても、自分のスキルのどの部分をいくらで売る、という感覚は、まずは試してみないと身に付きません。特に会社員を長く続けていると、仕事内容が専門的なものに限らずに多岐にわたるのに加え、月収・年収で仕事を受けているため、自分がしたことが果たしていくらの価値となるのかを判断するのはとても難しいものだからです。

 この問題は実は根深く、早いうちに解決しておかないとずっと悩みはついてまわります。今会社員で定期収入を安定的にもらっている身だから、モヤモヤを心にとどめておくことができますが、今後起業したり副業を実際に始めたりしようとしているのなら話は別です。人間は、「役に立てるのがうれしいから」だけで、かすみを食べては生きいけないからです。

今のうちにモヤモヤを解消しておかないと、待つのは「やりがい搾取」

 このマインドのまま独立・起業・副業を始めると、待っているのは「やりがい搾取」です。「金銭の報酬がいちばんの目的ではなく、自分の成長や、役に立てるという喜びが目的だ。だから、お金は安くてもいい」この言葉が「本当の本当の本当に」本心から出ている言葉で、今は修行期間だからタダでもこの経験をものにしたい! と割り切っているのならいいでしょう。しかし、キャリア相談などで多くの人の話を聞いて思うのは、「やっぱり、そうはいっても、せめて自分が食べていけるだけのお金は欲しい」がホンネなのです。

 ホンネにフタをして「喜んでもらえてうれしい」というアピールをしたままのあなたに待っているのは、「あなたなら安くやってくれるはず」という依頼主からの「やりがい搾取」、つまり「やりがい」を盾にした最低金額での労働かもしれません。経営とは利益の追求で成り立つものなので、仕事を依頼する側のホンネとしては、安くてクオリティーが高いあなたを手放したくはないのです。世の中は良い人ばかりとは限らないので「あの人なら安く買いたたくことができそう」と狙っている人は、けっこうたくさんいるもの。それを「いつもお世話になっているから」「今後につながりそうだから」「関係が崩れるのが怖いから」という理由で受け続けていては、体がいくつあっても足りませんよね。

 もちろんスキルがまだ足りない時期は、一定期間低賃金になってしまうことは仕方がありません。しかし、ずっと低賃金に甘んじていては「一人ブラック企業」まっしぐらです。

 副業した分、それが複利となって、本業にも副業にもプライベートにもいい循環が生まれるような流れをつくれずに、単なる時間の切り売りに終わってしまったら、何のために副業するのか分かりません。頑張れば頑張るほど、豊かになるどころか疲弊していき、健康も害してしまっては元も子もありませんよね。このような理由から、人生100年時代を迎える今、会社員という安定した収入がある時こそ、価値に対してお金をもらうという感覚に今のうちに慣れていく必要があるのです。

 かくいう私もたくさん失敗をしてきました。書くのも恥ずかしいですが、恥を忍んで私の失敗エピソードとそこから得た経験について紹介しましょう。