今後、副業が当たり前になっていく中で、時間の切り売りをする仕事を副業や兼業に選ぶことは、ブラックな働き方につながりかねません。会社員を続けながらも、自分の価値を見極め、能力を役に立つ形でパッケージ化するには、どうしたらいいのでしょうか。この連載では、働き方改革のコンサルティングを行っている池田千恵さんが、「ポータブルスキル(持ち歩き可能な、どこでも通用するスキル)」を磨く方法を指南します。第3回の今回は、つい言ってしまいがちな「老後はこうしたい」「ちゃんとしてから始める」などの先送りワードから抜け出す方法を教えます。

「老後はこうしたい」は思考停止を招く禁止ワード

今のうちから老後のことを考えるなんて、もったいない (C)PIXTA
今のうちから老後のことを考えるなんて、もったいない (C)PIXTA

 先日キャリアについての相談を受けていた時、まだ30代前半の彼女の口から出てきた言葉に衝撃を受けました。

 「老後の夢は小さいセレクトショップを開くことなんです」

 「老後」というのは、照れや謙遜もあっての言葉かもしれませんが、それでも「老後」というにはまだ早過ぎます。30代前半といえば、今後のキャリア形成に迷う時期。何でも教えてもらえる20代を経て、それなりに責任がある仕事を任されるようになる一方、今の会社で働き続けるイメージは明確でなく思い迷う気持ちは、分からないでもありません。しかし、まださまざまな可能性があり、将来の自分がどう化けるかも分からない年齢でもあるはずです。今この段階で老後の夢を決めてしまっていいのか? という疑問と、老後まで楽しみをガマンしてこれからの数十年を過ごそうと思っているの? という驚きに、次に返す言葉を一瞬失いました。

 オンラインの小売り環境も整い、創作物を直接販売することが容易になり、クラウドソーシングという仕組みが整ったおかげで自分のスキルを求めている人とのマッチングも可能な今の時代、「老後はこうしたい」は、たとえ謙遜だとしても、思考停止を招く禁止ワードだと私は考えています。老後だからまだまだ先だと考え、すべきことを先送りにしてしまうからです。例えばセレクトショップをリアル店舗で開くのは金銭的に難しいとしても、週末起業や副業でネット上に自分の視点で商品を選ぶお店を作ることだってできますし、自分なりのこだわりと、なぜその視点を持っているかも発信することができるはずです。今すぐにでも、あなたが「老後の夢」だと思っている道への第一歩に取りかかることはできるのです。

「ちゃんとしてから」の「ちゃんと」した状況は一生来ない

 老後が口グセの人のもう一つの口グセが「ちゃんと」です。「もうちょっと、ちゃんとしてから始めよう」と思っているうちは、「ちゃんと」した状況は一生来ません。「ちゃんとしよう」と頑張る人たちは、インプットに一生懸命で何か違う自分になろうとしますが、「まずはアウトプットして、その結果をインプットしよう」という視点がすっぽり抜けているのを感じます。せっかく、小さく初めて市場の反応を見ることができる環境にいるのに、反応を見ずに自分の頭の中だけで完結させてしまうクセはやめたほうがいいでしょう。

 この視点は、副業を今後考えている人にはもちろんのこと、今のところ会社で副業を禁止されている人や、副業をするつもりはまだない人にも必要です。今後副業が解禁され、年金支給年齢がどんどん上がることが予想されている中、ずっと会社員のコスト感覚、市場感覚のまま定年まで過ごすと、自分に何ができて、どのくらいで売れるのか見当がつかないからです。多くの会社員は会社の資産を自分自身の資産だと錯覚してしまいますが、会社の看板を取ったときのまっさらな自分自身に何ができるか? というと、はっきり言えない人が大半なのです。

 一般的に企業は営業部、マーケティング部など、部署ごとに能力を特化させ、その道の専門家になるべく教育をします。専門能力に特化するのは組織にいる間は機能するかもしれませんが、全体を見る能力を磨くのは難しいことです。副業解禁後や定年後自分で商売をしようとする場合に必要なのは、変化し続ける状況の中で、自分の能力が誰のどんな問題を解決し、それがどれだけ相手を幸せにできるかを判断し、状況に応じて最適化する能力です。マーケティング「だけ」、営業「だけ」やっていても、状況の変化を捉えることができません。

 「じぶん商品化」(=「自分の価値がここにあるのではないかな?」と仮説を立て、パッケージ化し、値付けして販売しながら試行錯誤を繰り返すことで、どこででも通用するスキルを磨くこと)で小さく市場で価値を交換することを試していけば、自分に足りないところが見えてきます。足りないところが見えれば補うべきところも明確化されます。自分にできないなら他の得意な人に頼もう、という判断も、まずは「じぶん商品化」をしてから始まるのです。

 例えば、将来マーケティングのプロとして独立しよう、と考えたとして、今の職場で徹底的に仕事に没頭する、という選択はもちろんいい心掛けだと思いますが、専門のための勉強だけを極めた「専門バカ」は「じぶん商品化」を進めながら得た知識を持つマーケターには勝てません。なぜなら、今役立っているマーケティングの知識も、市場がどう動くかを考えながら仕事をしておかないと、賞味期限が切れてしまう可能性も高いからです。

 賞味期限が切れたベテランは、イノベーションを邪魔する存在です。そうならないためにも、今、小さく挑戦することを恐れないようにしていきましょう。